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君に繋がる空

  
26、過去と今とを結ぶ空





『流れ星って、宇宙に漂っているチリが猛スピードで地球の大気に突っ込んできて発光するんだって』
『え〜!?星が動いてるんじゃないの!?』
『いくら宇宙が広いからって、星があんな動いてたら危ないだろ?で、そのチリがあんまり速くて、夜空を一瞬で駆け抜けていく星のように見えるから"流れ星"っていうんだってさ』
『うそっ、じゃあ、あたしチリに願い事してたの?』

寝転んでいたとーこが、起き上がって俺を覗き込んだ。
まだ俺ととーこの間に境界線がない頃。
頭がくっつくほど近くで、寝転んで星を見上げた。
ペルセウス座流星群を見るために。

俺はくくくっと笑ってしまう。だって『とーこ、すげえ顔!』凄くがっかりした顔だから、おかしくて仕方なかった。
『だあっ・・・て!そんなぁ〜・・・』
すっかり気落ちして、隣に座ったとーこが両手を後ろについてまた空を見上げた。

『まあでも・・・・』
とーこがあんまりがっかりした顔だったから、その肘の内側を軽く引っぱる。とーこの腕は重心を崩して、カクンとよろけ倒れかける。じろりと睨む瞳にまた笑いながら、俺はペルセウス座を指差した。とーこはそのままぱたりと草の上に寝転んで、俺が指差した方向を見つめながら『うん?』と耳を傾けてくれる。
『この流星群の大元になる流星ダスト(チリ)って、スイフト・タットル彗星が放出してるんだ。チリって言っても、星の核から出てるわけだから、星の一部には変わりない・・・かな?』
『凄いね』
『え?』
俺は少しだけ上半身を起こしてとーこを覗き込む。
とーこは夜空を見上げたまま囁くような声で言った。
『・・・・・・チリだとしても、シアワセな気持ちにしてくれるんだもん。』
そしてとーこは俺を見て。
『来年も、その先も、こうして流れ星探せたらいいね。』
笑顔で言った。





期末が終わり夏休みに入った途端、本格的な暑さが訪れた。
開け放たれた窓からは、山を降りてきた風が入り幾分涼しさが感じられる。
ただ、庭先から響いてくるセミたちの鳴き声が暑さを倍増させるから、俺は窓を閉めてエアコンのスイッチを入れた。

昔は、こんな暑さ気にしないで遊びまわってたのに。
川だ、プールだって走り回って・・・。

『休みに入ったら遊ぼうぜ!』
そう言っていた陽太や修は補習と部活で前半は忙しく、雄介と有菜も準決勝まで進んでる野球部の応援で忙しくしていた。
部活に入ってない俺は時間を持て余し、バイトしようかと思っていたけど、ばあちゃんの調子が心配だったから今回は見合わせた。
そのばあちゃんは、午前中お茶に誘われとーこん家に行っていて、そのまま帰って来ない。――杞憂だったようで安心している。

俺は一人分の昼食の片づけを終え、昨日から始めてる英文の訳しでもしようとリビングのソファーに座った。
去年は午前中部活、午後は川遊びしてたから、何をしようかと悩むような夏休みは初めてだった。
流石に体をまったく動かさないのは苦痛だったから、夜、走ったりはしてたけど。
今からでも何かバイトを探そうか?と考える。

何かしていないと、暗く重い気持ちに押し潰されてしまいそうになって苦しかった。
泣き顔と笑顔が交錯する。
あれから、俺は謝ることもできずにいた。
目の前で閉まった扉が、とーこへ手を伸ばすことは許されないんだと思い知らせた。
とーこが見つめる先には、もう俺ではない他の人間が居る。
こうして離れていれば・・・会わずに居れば、とーこは笑顔で居れる。
俺と離れていれば――・・・それは悲しい真実。


「あっちぃ〜よ〜!なんか冷たいもん!!」
「休み入った途端これだもんなぁ」

"おじゃまします"でも"こんにちは"でもない、こんな言葉で人の家に上がりこんで来る人間は2人しか考えられないから、わざわざ玄関まで行って出迎えたりせず、勝手に入ってきてリビングのドアを開けた2人組を見て、無言のままソファーから立ち上がった。

「なんだよ、今冷房つけたトコ?」
「急冷にしよ、急冷!」

キッチンへ向かい冷蔵庫からペットボトルを出し、さっき洗って伏せたグラスを2つ持ってリビングへ移動する。
エアコンのリモコンボタンを押したようで、静かに冷たい空気を流していたエアコンが忙しなく大きな音を出した。
「なんだよ、もう昼飯食っちゃったの?」
「直人、ばあちゃんは?こんな暑いのに、どっか出かけてんの?」
2人は持っていた荷物を放り投げると、シンはフローリングに大の字になって寝転び、拓は俺が広げたままのテーブルの上に置いた参考書を手にして「コレいいな、俺にも貸してよ」と呟いた。

「もうって、もう1時半だし。ばあちゃんは、とーこんち。」
俺は溜息を吐いてグラスをテーブルに置き、ペットボトルをシンの頭の上に置いた。
「冷てぇ〜キモチイイけど、オイ!危ねえよ!」
俺が手を放すとシンは慌てて両手で押さえ、拓へペットボトルを渡した。

「でもさ、ばあちゃんたちって毎日茶飲みしてるけど、仲いいっつーか、飽きねえよなぁ」
「俺らも年取ったら、毎日茶飲むか?」
「んな話することあんのかねえ?」

そんなことを言って笑う二人だったけど。
・・・荷物を見ればわかる。
シンは部活帰り、拓は教習所の帰り。わざわざ示し合わせて、ここへ来たんだろう。

「・・・で、なんで昼にここ来るの?」
俺がキッチンへ向かうと、シンは飛び起きて「そりゃ、直人の手料理食べに!電車で一緒になったんだよ」と笑う。
「その辺で店入るより、ずっと美味いもんな」
拓もお茶をグラスに注ぎながら、しれっと続けた。
「じゃあ金払ってけよ。」
言いながら中華鍋を出してしまうあたり、俺もなんなんだけど、とりあえず「なんもないからな?」と念を押す。
「ナニ!?何作ってくれんの?」
グラスに注がれたお茶を一気に飲み干して、シンが両手を胸の前で合わせて目を輝かせる。
「チャーハンでいいだろ?すぐにできんのなんてそれくらい」
「おお!うちの母ちゃんなんて、夏の昼なんてそうめんしか用意してくんねぇーんだぜ?」
「そうめん切らしたんだよ。つか、家帰れよ!」
自分の昼は残りもんで済ましたのに、なんでメシ作らなくちゃいけないんだ?と思いながら、包丁を出して葱を刻む。飯、また炊かないとダメじゃないか・・・、なんて思いながら。

鍋を熱しながら、思わず苦笑した。
幾つになっても、やっぱ俺ってかっこ悪ぃーのな・・・。
この2人にとったら、俺はいつまでも2つ下の直人クンなんだろう。
どこか窺うような視線を感じる。
仕方ないか。期末最終日の俺の状態をシンは知ってるんだから・・・。



「いっただきまーす」
「うまそう!直人さんきゅー!」
二人に皿を渡すと、嬉しそうな声が返る。「合宿に連れて行きてえよ」と言うシンに「やだね」とこたえ、冷蔵庫にアボガドのサラダがあったことを思い出し、サラダの入ったタッパーを持って来て渡した。「家じゃ出てこない食材だな」とシンがタッパーを開けて呟いてる。
「で、どこまで進んだ?3段階終わり?」
「街中が危ないんだよ。じいちゃんとかばあちゃんとか、ふらふら〜って自転車で出てくるからな」

美味しそうに飯を口に運ぶ二人を確認して、俺は参考書を再び開いてソファーに寄りかかった。
しばらく他愛のない話をしながらシンと拓は昼飯を食べて、俺は英語の長文を解いていた。
用意するのに費やした時間の半分ほどで食事が終わると、シンが拓の分の食器もまとめて流しに運んだ。「あ、いいよ、後で洗うし」と俺が言うと「これくらいはやるさ」とシンが笑った。その笑顔はちょっと照れたような懐かしい笑顔だった。

「直人」

足元に居た拓が、どさりと俺の隣に座り、前を向いたまま名前を呼んだ。
俺はペンを指先でくるくると回していたのをやめて「何?」と片足を立ててそこに頬を押し当てて訊ねた。

「・・・この前さ、俺が"頼みたいことある"って言ったの覚えてるか?」
「電気屋であった日の?」
「そう、それ」
「覚えてるよ。・・・で、何?」

拓は俺をちらりと見て、それからシンを見た。
そして立ち上がると「連れてくのが一番手っ取り早いか!」と策士な笑みを浮かべて、俺の腕を引いた。
「はぁ!?何!?」
「シン、終わったんだろ?行くぞ」
「おう、腹ごしらえもしたし、ばっちりだ!」
「なん?なんのことだよ!?」
訳がわからず声をあげるばかりの俺に、シンが「お前の時間、ちょっと貸してくれよ」とウィンクしてみせる。
キャ、キャラじゃねえ!!
そう叫びかける俺の腕を両脇から二人で掴み、リビングから引きずり出されるようにして、眩暈がしそうな暑さの中に放り出された。
何もこんな一番暑い時に外に出なくてもよさそうなのに、と思いながら「ほら、いくぞ!」と歩き出した2人の背中に渋々ながら歩き出した。

「それで、俺に何をさせたいわけ?たーくん?」
わざと懐かしい呼称で訊ねてみるが、拓はくすっと笑い「いいからいいから」と軽く流すだけ。
「シンちゃん、どこ行くんだ?」
さすがにシンはそう呼ぶと「ヤメロ!」とバックを振り回したけれど「拒否権はないんだよ!」と人指し指を突きつけて尊大に笑った。
俺は聞きだすのを諦めて、2人の後を歩いた。

・・・あれ?

ふと顔を上げ、よく知っているはずの道を見回した。その道は住宅の間を縫って歩く道で、懐かしい場所に繋がる道だった。
「・・・小学校?」
思わず呟くと、拓が振り返って笑う。
「そ、懐かしの。」
「中学と違って、俺らこの道通ってたよなあ」
風除けと日陰をもたらす家々の木々が影を落とし、照り付ける痛いほどの日差しは遮られ、蔽い茂った木々の葉から細かな光だけが降り注ぐ。
小学校への近道。
6年間通った道だったけれど、卒業してからはこの道をほとんど通らなかったから、まるであの時代にタイムスリップしてきたような気持ちになっていた。
大きく感じた生垣や家々が、やけに小さく感じた。
懐かしさと、知っている場所なのに、まるで知らない場所に迷い込んだかのような・・・錯覚。

そうか、俺の身長が違うんだ。

あの頃と目線が少しかわるだけで、まるで違う雰囲気になる。
道さえもあの頃より狭く小さく感じた。
なのに、取り囲むように並ぶ木々だけは、4年分大きくなっていてそのアンバランス差が不思議に思えた。

小学校なんて、中学からも見えたのにな・・・

変わっていくのに、変わらずにあるもの。
変わらずにあるのに、俺が見る目を変えてしまったもの・・・。

そこかしこに、とーことの記憶が残像のように残っていて、俺は目を細めた。
「・・・偶に通ると、なんか不思議なもんだろ?」
拓の言葉に俺は頷いていた。



少しばかり改装されて新しくなった職員玄関に向かう拓に「そろそろ教えてくれてもいいんじゃねえの?」ともう一度訊ねてみる。
それまではぐらかすような態度だった拓は、突然振り向いて「コーチ、引き受けて欲しいんだよ」と切り出した。
真面目な顔で。
「コーチ?って・・・なんの!?」
俺は立ち止まって首を傾げる。
シンがそんな俺の背中を押して「バスケに決まってんじゃン!ミニバスだよ」と笑った。
そりゃ、この2人が関わってるんなら"バスケ"だろう。
それで、なんで小学校??

拓は慣れた様子で職員玄関に備え付けてあるノートに名前を3人分書いて、用務さんの部屋に「ミニバスコーチに来ましたー!」と声をかけた。奥から「ご苦労さん!」という声が響く。
「もう俺たち頃の用務さんは居なくなっちゃったんだ」とシンが寂しそうに呟いた。シンはよく用務さんのとこでTV観てたりしてたからな・・・。
来賓のプレートが外された靴箱を開けると、拓はそこからシューズを取り出し、シンはバックから取り出して履いた。
「そっか、お前は今日はスリッパな?」と拓は来賓のプレートのついた靴箱を開けてスリッパを出すと、俺の前にパタンと音をさせて置いた。
自分が職員玄関から小学校に入るなんて、またおかしな感じだった。

「俺さ、高校"同好会"だったじゃん?バスケ。毎日練習あるわけじゃないし、休みのバイトも午前中だったしさ、頼まれて小学校のミニバスの練習見てたんだよ。」
随分低くなったように感じる天井を見上げながら体育館に向かって歩き、拓が腕を伸ばしてストレッチしながら話し出した。
「頼まれてって・・・誰?」
ひとりスリッパの気の抜けたような音を廊下に響かせ歩く俺は、クラス表示に手を伸ばせば届くことにちょっとした感動を覚えながら訊ねた。
「先生だよ、俺たちが6年のときの担任だった目黒先生。覚えてるか?」
「眼鏡かけた痩せた先生?まだ居たんだ?」
「ああ、今年で定年なんだ。で、さ、先生に高1の夏に駅でばったり会って。珍しく電車で来たとかでさ。そん時に練習見に来ないかって。先輩の技見せてやってくれってさ」
「へー」
「それからかな、試合前とか、俺の同好会の練習ない日とか、顔出してたんだよ」
「拓は面倒見いいからなあ」

シンの言葉に拓がちょっと照れたような顔をしたのを俺は見逃さなかった。
「もちろん、指導したりしてるわけじゃないよ?一緒に練習してるだけ。後はちょっとしたアドバイス。手首の角度とか、パスの出し方とか。」
「ドリブル競争とかパス練とか、意外と面白いんだぜ?」
シンもストレッチしながら言うところを見ると、何度か一緒に来てるんだろう。
体育館が近づくと、ボールをドリブルする音が大きくなる。
「・・・俺さ、大学受験決めただろ?普通科じゃないからやっぱり遅れてるとこあって。」
「・・・なるほどね。俺は部活してないし、拓の代わりを・・・跡を継いで欲しいってこと?」
俺が言うと、拓が「そんな頻繁じゃなくていーんだ。週に一回くらい顔出してくれれば。先生は一緒に走り回るのもうきっついからさ」と苦笑した。

中学よりもっと人数が少ない小学校だ。先生の数だって限られてる。定年の目黒先生だって出なくちゃいけないんだろう。
この時期は水泳大会があって若い先生はそっちのコーチで午前中出てるんだろう。
9月入ってすぐに陸上大会もあって市内の合唱コンクールもあって夏休みも何かと登校してた。
水泳と合唱コンクールは全員参加だったけど、ミニバスと陸上は希望制で(と言っても大会前にはほぼ全員参加だけれど)練習があったっけ・・・。
今思えば、小学生のころが一番ハードだった。俺は陸上大会が終わると、結局ミニバスに参加させられた。俺たちが在籍してたころは、大学時代バスケ部だったっていう先生が居たけど、俺の卒業と一緒に転勤していたんだっけ。

俺は体育館の前で立ち止まった拓に「いいよ」と呟いた。
「え?」連れてきておいて、俺がOKすると思っていなかったのか、拓は驚いた顔で俺を見た。シンだけはニヤニヤとしてる。
「一緒に楽しむ感じでいいんだろう?」
俺は肩を竦め笑って見せた。
「何かしたいなって思ってたんだ。ここなら、家も近いし。偶には顔出してくれるんだろ?拓とシンも。」
そう訊ねると、拓とシンは「もちろん」と頷いた。
「挨拶代わりに、ダンクシュートでも見せてやれよ。リング低いからできるぞ?陽太じゃなくても」
シンがばしんと肩を叩いて笑った。

「おお、拓、シン!それに・・・三上か!?」
コートの端で立っていた白髪の増えた目黒先生が、俺たちを見つけて嬉しそうに声を上げた。
人数が少ない学校だからって、担任でもない、もう4年前に卒業した俺の名前を呼んだ先生に、拓が駆け寄る。

「・・・拓、教育大受けるんだよ。教師になりたいんだってさ」
シンの言葉に、俺は驚いて、だけど「ああ」と頷いた。
「拓みたいな"先生"居たら、楽しいだろうな・・・」
拓の周りに集まった男の子と女の子の笑顔を見て、心からそう思った。

「今日はもう一人、バスケの上手な"お兄ちゃん"連れてきたからな?直人!」

名前を呼ばれ、ゴール前に居た俺にパスを寄越す。
俺はジャンプして幾分低いゴールに叩き込むようにダンクシュートを決めた。
わあっと歓声があがる。


「派手な挨拶!スリッパなのに!」
自分で"見せてやれ"なんて言ってたくせに、シンが腹を抱えて笑っていた。
「・・・三上です。よろしくな?」
少し屈んで目線を合わせるようにすると20人ほどの小さな頭がぺこりと一斉に下がり「お願いします!」と大きな声が返ってきた。
それからしばらく、俺たちは四角パスやドリブル練習をして汗を流した。



2時間ほどの練習と後片付けが終わると、目黒先生がポカリを奢ってくれた。
これからの日程だとか簡単な打ち合わせみたいなものを済ませ、俺たちは3人で体育館に並んで座った。

真夏でも、この体育館はどこかひんやりとしている。
小学生のころは、だから体育館がどこか怖く感じたりしたけれど、多分古い木造の建物の所為なんだろう。

心地よい疲労感に高い天井を見上げていると、拓が「ありがとうな」と呟く。
「たーくんの頼みだし」
俺が笑うと、拓は肩を竦めて「言ってろ!」と俺の頭をぐしゃっと撫でた。

「・・・俺さ、親に言われたんだよ。『大学行くなら普通科行けばよかったな』って。」
商業科は普通科に比べ、実践的な資格をとるために時間を割いて勉強してきたはずだ。まして教育大受けるならかなりの努力が必要だと思う。・・・拓なら平気だろうけど。
「だけどさ、俺、商業行ってなかったら、先生と再会して、そしてミニバスの練習見ようなんて思わなかったと思うんだ。普通科行ってたらバスケはしてたと思うし大学も目指してたと思うけど、こうして小学校なんて来てないし・・・まして、先生になりてーなんて思わなかっただろうな。」

シンは壁に寄りかかりポカリを一口飲んだ。何も言わないけれど微笑んでるのがわかる。

「高校出て働こうって思って商業選んだのも自分で、結局すげえ遠回りした感じだけど、後悔はしてないんだ。したくもない。だから、今できることと、選択したことにちゃんと向き合おうって思った。・・・で、多分、こんな前向きな熱い考えって、コイツのが伝染ったからだろうし?」

にやけるシンに足を伸ばし軽く蹴って、拓は笑った。「いやいや、たーくんも熱いオトコだったんだねえ」とシンは蹴り返して笑う。

拓の言葉は、俺の心の中にじわじわと浸透してきてた。
そう、とても大事なことを伝えようとしてるんだ。拓は。

「・・・何よりさ、俺の中で小学校の頃の思い出って、なんていうか特別で・・・シンと直人と俺と・・・とーこと。だから尚更、やってみたいって思ったんだ。」

びくりと体が強張って、自分自身が一番驚いた。
名前を聞いただけで、なんでこんなに苦しくなるんだろう・・・。

俺の反応をじっと見ていたシンが笑顔を消して名前を呼んだ。
苦しい俺はうな垂れて、シンを見ることができなかった。

「中谷とは、付き合ってないんだろ?んで、それをとーこには言ってねえんだ?」
俺は頷けずそのままうな垂れていた。シンは溜め息を吐いて「お前の性格くらいわかるっつーの」と俺を蹴った。
痛みなんて感じないくらいの強さで。
「それ、とーこのだろ?」
言われて、俺は携帯を握り締めてたことに今更気づいた。
シンが指差していたのは、ガムランボール。
「お前らが星見てるとき、必ずどっちかがそれ持ってたよな?」

いつも、いつも。

「・・・っでも、過去に縛り付けておくなんて・・・」
呟いた声が掠れる。鼻の奥がつんとする。
「とーこは、俺と一緒じゃ・・・もう笑えない。とーこの笑顔が見れないのは・・・」
吐き出すように言った言葉を遮るように、拓が俺の頭を叩いて「馬鹿な奴ほどなんとかって・・・こういうことなんだな」と呟いた。

「"特別"なんだろ?離せないんだろ?無駄なことなんて、何にもないんだよ。きっと・・・傷つけて遠回りしたことも、必要なことだったんだ。」

拓のその言葉に、シンが続く。

「過去は今に繋がってて、今は未来に繋がってんだよ・・・!」

もどかしそうに言ったシンに、俺は心の中で訊ねていた。
震える手で、携帯を握り締めたまま・・・

"とーこの未来に俺は居るのかな?"


『来年も、その先も、こうして流れ星探せたらいいね。』
笑顔で言ったとーこ。


大切だから、もう傷つけたくない。
どんなに掴もうとしても、もうとーこの手は俺をすり抜けていく・・・。
苦しいくらい離したくなくても。





――26、過去と今とを結ぶ空

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