陀羅尼品 (2)
次に 勇施菩薩ゆうぜぼさつ が、立ちあがり
「世尊 私も 陀羅尼神呪・だらにじんしゅ・を 唱えます。
光耀こうよう よ 大光耀よ 炎火えんこう よ 照明しょうみょう よ 大自信よ 美に満つる者よ 歓喜よ 永続する歓喜よ
教えの安住よ 教えの節度よ 教えの永住よ 教えの無妥協性よ 教えの純潔性よ
この神呪も、無数の諸仏の唱えております。
この神呪を得た人々に 魔や魔民がその人の欠点を探して邪魔しようとしても でき得ません。
この神呪を唱える法師を害するものあれば、それは諸仏を害するものでございます」と 申しあげました。
次に 北方守護の毘沙門天びしゃもんてん が立ちあがり 「四天王」
「世尊 私も、法華経を受持する法師を守護し、諸々の障りがないように 陀羅尼神呪を唱えます。
富有ふゆう よ 遊戯よ 無戯よ 無量の価値よ 最も富むものよ 比較を絶する富よ」と 申しあげました。
次に 東方守護の持国天じこくてん が 無数の「乾闥婆」けんだつば と共に立ちあがり
「世尊 私たちも 陀羅尼神呪を 唱えます。
無数の 多数の 暴悪のものよ 持香のものよ 黒耀こくよう の星の光よ 祈りの力よ 大意よ順述せよ 最高の真理を
この神呪も 無数の諸仏が唱えております。
この神呪を唱える法師を害するものあれば それは諸仏を害するものです」と 申しあげました。
次に 十人の羅刹女らせつにょ や 鬼子母と子供たち その眷属けんぞく が 世尊に礼拝し申します。
「世尊 私たちも 呪を唱えます。
この人に ここにおいて この人に この人びとに この人に 無我よ 無我よ 無我よ 無我よ
すでに興おこ りぬ すでに興りぬ すでに興りぬ かくして立つ かくして立つ 害を加うるものなし 害を加うるものなし
私たちも、法華経を受持し・読誦する法師を 様々な障りからのがれるように守護してあげたいのです。
法師のアラ探しなどをしようとする者があったら、必ずや、封じてやりましょう。
つづけて 祈りのことばを 捧げます。
もし何者かが 私どもの頭を足で踏みつけることをしても いくらでも耐え忍ぶことが できましょう。
そのかわり 法華経の法師を悩ますことが 起きませんように もろもろの鬼どもが襲ってきませんように、
その鬼どもの魔力で熱病に犯され 1日たりとも苦しむことも 又 絶えず熱病に苦しむことも ありませんように
又 その鬼どもが 男の姿になり 女の姿になり 童子の姿になり、童女の姿になって 修行の妨げをしたり、
あるいは 夢の中に現われて 悩ますことも ありませんように
若し 我が説く呪に順ぜずして 説法者を悩乱のうらん せば 頭破れて七分になること 阿犂樹ありじゅ の枝の如くならん
父母を殺す罪の如く 亦 油を圧す殃つみ 斗秤としょう をもって 人を欺誑ごおう し
提婆達多だいばだった が 調達が破僧罪の如く 此の法師を犯さん者は 当に 是の如き殃つみ を 獲う べし
意味: 「提婆達多品」
これほど一心に呪を説いて 法華経を受持し読誦する法師を 守護しようとする精神に逆らい
説法者を悩ます者があれば その者は罪の報いとして 頭が阿犂樹ありじゅ の枝の如く裂けるであろう。
阿犂樹の木は、強い風で枝が折れてしまうとき 七分八裂して地に落ちるのです。
法華経の説法者を悩ます者の罪とは 父母を殺する罪と同じ大罪たいざい を犯すことだから、
その者の頭が 阿犂樹の枝の如く 裂き割れてしまうのです。
油を圧お す殃つみ とは 昔のインドで 自分勝手な非常に悪い譬えとして 語られていた用語。
当時のインドでは 油を絞るとき 原料の植物の上に重し(石)を置いて造りました。
その原料に虫が湧わ くのですが 丁度良い重しの石は虫を圧し潰さないので 美味しい油が出来ます。
この重し加減が悪いと 虫は圧し潰されて死んでしまうので 味の不味まづ い油が出来上がるのです。
この用語は 他の生命を尊重せず 自分だけ良ければいいという行為を強く戒めた譬えです。
羅刹女や鬼子母が唱えた呪は 法華経の説法者を悩ます者の罪は
油を圧す殃つみ と 同じ重い罪であるし、斗秤としょう をもって人を欺誑ごおう し罪とも、同じ重い罪である。
又 秤はかり (目方や量)をゴマ化して人を騙す罪とも、同じような重い罪である、という意味の呪・しゅ・です。
調達ちょうだつ とは 極悪非道の人間 提婆達多だいばだった を指しています。
世尊の従兄いとこ の提婆達多は、世尊の教団の和合を乱す行為や、世尊の命を狙った男です。
僧とは 信仰者の共同体である僧伽さんが を略しています。
その共同体の和合を打ち壊すことは 非常に大きな罪なのです。
そこで 法華経の説法者を悩乱させる者の罪は このような大罪に等しいので、
罪の報いによって 頭が阿犂樹ありじゅ の枝の如く 七分八裂して割れるであろう、ということです。
最後に 十人の羅刹女と鬼子母は
「世尊 私たちは 法華経を実行する衆生の心がいつも安穏でいられるように、身をもって守護いたします。
たとえ毒殺しようとする者がいても その毒を消し去ってしまいましょう‥‥」と 申しあげました。
世尊は 慈悲の眼差しをもって
「羅刹女たちよ そのとおりです。 法華経を尊いお経として崇め奉る衆生を守護するだけでも、
量りしれないほどの功徳があるのに ましてや その教えを良く理解し、具足し、実行し、さらに、
教えに対する感謝報恩の行ないを 怠らぬ者を守護するならば、その功徳は非常に大きなものです。
羅刹女よ鬼子母たちよ 法華経の法師を しっかりと守護してくださいね」と 褒めたたえました。
世尊が 羅刹女らせつにょ たちに、優しい言葉をかけたので あらゆる世界の人々は心から感動して、
たとえ 今後どんなことが起ころうとも 又 たとえ 境遇にどんなに変化があろうとも
仏の教えの信念を、未来永劫もちつづけることを全員が、声高らかに誓い合いました。
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