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2003年4月13日

現在、午前4時。ラジオから流れてくる演歌を聞きながら、暗い夜道をのんびりと車を走らせていた。今日は久し振りに本気モードで釣りに行くのである。曲が終わると、今日の運勢コーナーになった。占いや運勢は信じないのだが、ラジオによると今日の運勢はいいらしい。まぁ、信じていなくても、

「今日の貴方は最高ですぅ!ラッキータイムは朝!」

なんて、女の子のカワイイ声で言われると、まんざら悪い気はしない。私以外にいない車内でにやつく顔は誰にも見せたくないものだ。
 
5時、目的地到着。先客はいない。そそくさと支度を整え、軽やかに沢に降りる。10分ほど歩いて、渓相が良くなったところで釣りの準備をする事にした。腰掛けるのに丁度良い大きな石を見つけ、ドッカと腰を下ろした。持参したお茶を一口飲み、それから、タバコを取りだし、火を付ける。

ゆっくりと渓の状況を確かめる。雪代で水嵩は高く、緑茶の様な色をしている。しかし、さほど濁りは無い。コレぐらいなら釣りになるだろう。
やっぱり、釣りは朝一に限るな・・・
大きくタバコの煙を吸い、ゆっくりと吐き出す。何とも言えぬ幸福感に満たされる。タバコをくわえながら、ザックから竿を取り出す。

「今日は1号でやってみるか・・・長さは二尋でいいな・・・針はスレ8号・・・重りは・・・今日は2Bだな。」

私は最近現場で仕掛けを作る事にしている。

「仕掛けは渓を見てから作れ」

私の尊敬する江戸時代の源流士「三田村連山」の教えである。この教えを私は忠実に守っている。様々な様相を見せる源流部では、その渓に合わせて仕掛けを作るというのが基本なのだ。
というか、ずぼらで釣行前に仕掛けを作らないという噂もあるが(苦笑)

1号の糸をベスト右下のポケットから取り出し、チチワを作り、愛竿「連山」の穂先に取り付ける。糸をリールからスルスルと引きだし二尋で切る。それから、針と重りが入った小物ケースを右胸ポケットから取り出し・・・

あ、あ、あれぇ〜??なにゅ〜ん???ウッソォ〜!!!

なんと、小物ケースが無いのである!!
他のポケットを探るも、ザックを逆さにするも、無いものは無い!
車に忘れてきたのだろうか?非常に悪い予感を打ち消しながら、車に忘れた事にして慌てふためいて、飛ぶように車に戻った・・・探した・・・探した・・・探した・・・
無い!!!(泣爆)

何の為に朝2:30に起きて、ここに来たのか?もうパニックである。今から針を買うにも、まだ店は開いていない。誰か来たら、分けてもらおうか?いや、そんな恥ずかしい事はできない!誰とも会いたくない!!それより、今日は釣ってくると宣言した友人達がなんと言うだろうか?兎に角、パニックである。

私は冷静になろうとした。無いものは無いのである。全ての記憶を100倍速で蘇らせた。そうだ!確か、車の中に針が落ちてたのを見た記憶がある!私は、必死で荷物をどけ、荷物スペースから、後部座席、さらに、フロアマットをはがし、全てを探した。そして、ついに針1個発見!その時の感激は幻の徳川埋蔵金を発見したとでも表現したら良いのだろうか?いや、徳川埋蔵金の比ではない!今はこのたった一つの針の方が徳川埋蔵金より価値があるのだ!さらに探すこと10分、もう1個発見!!思わず目が潤んでしまった。しかし・・・ふと、我に返る・・・たった2個の針で・・・自分の実力で・・・釣りが出来るのであろうか?(爆)

もう、開き直りである。意を決して貴重な針に糸を結ぶ。丹念に外掛けで5回、きっちりと巻いて結ぶ。そして再度出撃。先程と違って足取りは重い。「玉砕」の二文字が脳裏をかすめる。この打ちひしがれた気持ちを逆撫でするように、先程まで余裕で見ていた渓は私を嘲笑うが如く激しくうねっているように見えた。

兎に角一匹釣れればいい。今望むのはそれだけだ。いくつかのポイントに貴重な仕掛けを放りこむ。やっと6寸の岩魚が釣れた。釣れた瞬間は兎に角嬉しかった。しかし、仲間内では6寸は「ボ」扱いである(哀爆)

濁流の中、比較的大きな淵に遭遇、大物は底にいるというのが定説である。従って、仕掛けを奥深く送り込む・・・動かない・・・これは・・・・もしかして・・・

予想通り根がかりであった(爆)普通なら、こんな大淵で根がかりしたときは仕方が無いので、仕掛けを切ってしまうのだが、今日はそうは行かない。今は自分の体より、仕掛けが大切なのだ!一歩一歩進む毎に体が沈んでいく。根がかりした地点まで行くと、腰の深さを越えた。私の装備は鮎タイツ。雪代は冷たい。パンツが徐々に凍えていく感触がなんとも言えない。さらに、糸を頼りに腕を沈める。肩まで沈める。もし、見ている人がいたら、入水自殺かと思うだろう。首筋から冷たい水が胸を伝わって激しく流れ込む。糸を引っ張る。木の枝が浮上してくる。重りが見えた。あと20cm・・・あっ!・・・・切れた・・・・

全身ずぶぬれになって、助けようとした針が静かに沈んでいく様がスローモーションで描かれる。私は頭の中が真っ白になるという事を初めて経験した。残りの針はあと一個・・・こんな気持ち、誰にも分かりはしまい・・・

追いつめられた私は開き直った。

「オレはイワナ師だ!元祖イワナ師だ!!仕掛けなんぞ一つありゃ充分だ!!」

もう失うものは無い。最後の仕掛けが無くなったときは、竿を置くときだ。まるで、侍の様な心境になったのである。(仕掛けがなきゃ、竿持っててもしょうがないですが(爆))

それからは、まさに真剣勝負。荒れる渓に潜む岩魚を見極め竿を振った。結局仕掛けをロスすることなく9寸を筆頭に型物5つを得ることができた。この瞬間、ここに、一人の必殺仕掛け人が誕生したのである。

(完)