いっさいにょらいしんひみつぜんしんしゃりほうきょういんだらにきょう
      真理の開示の経典   一切如来心秘密全身舎利寶篋印陀羅尼経
    
   如是我聞・にょぜがもん・私はこう聞きました
   ある時、仏(世尊)は マガダ国の無垢・むく・という土地に出向き、宝光明池・ほうこうみょうち・という宮殿にて、説法を行いました。
   この説法会には、                                                      「天龍・・・人非人
   大菩薩衆や大声聞・だいしょうもん・、天夜叉乾闥婆阿修羅迦楼羅緊那羅摩睺羅伽などの人非人等のほか
   数えきれないほど、多くの大衆たち(無量百千衆倶)が、世尊を取り囲み説法を真剣に聞いておりました。
   その大衆たちの中に、無垢妙光・むくみょうこう・という名の、優れた智慧をもつ(多聞聰慧・たもんそうえ・)大婆羅門・ばらもん・がいました。
             無垢妙光の名の意味は、無垢という土地に住んでいる妙光という名の人。
   妙光は、常日頃から、十善を行じて、仏・ぶつ・・ほう・・そう・の三宝・さんぽう・に帰依・きえ・して、世の中の人々が皆、
   不自由無く平和に暮らし、富栄えることを願い修行していた。 その十善を行じる心はますます殷重・いんじゅう・(盛んなこと)でした。
  
  爾時・にじ・(その時)妙光は、纔起・ざんき・して(にわかに起きあがり)、仏の前に進み出でて願いを申した。
  世尊、私は供養を捧げたいのです。 明日の朝、皆さまと共に、私の屋敷にお越し下さい
  世尊は、黙して語らなかったが、妙光は、世尊の柔和な表情から、自分の願いが許されたことを、読み取った。

  そこで、妙光は、家に急いで帰り、家中を清掃し、百味の飲食・おんじき・などの明日の用意を、一夜中かかって万端・ばんたん・を整えた。
  翌朝早く、妙光は、仏の許・もと・へお迎えに推参・すいさん・した。                推参ー訪問することを遜って言う語。
  迎えに来た妙光に対して、世尊は、やさしい笑顔と言葉で、、労をねぎらわれました。
  そして、世尊は、立ち上がり、説法会に集う無量百千衆の方を顧り視て、申した。
  「さあ~皆さん、これから、妙光の邸・いえ・に行き、彼の心を尽くした手厚い供養を受け、利益・りやく・を得ましょう」。
  この時、仏身(世尊の身姿)は、神々・こうごう・々しく妙なる光で輝き、十方世界を、照らしだしていました。

  妙光が案内の先頭に立ち、梵天帝釈天四天王がつづき、天龍や八部衆たちは、世尊を護り囲み、進んでいきました。
  宝光明池・ほうこうみょうち・の宮殿を出発し、妙光の家に向かう途中に、豊財園・ほうざいえん・という名の園がありました。
  その園の中には、朽ち果て傾いた古い塔が、土に埋もれたままになっていました。
  かなり古い塔らしく、砕・くだけ・け崩れ土砂に埋もれています。 その塔には、荊・いばら・や蔓・つる・がトゲトゲしく絡みついています。
  この様子に気づいた仏(世尊)は、木を掻き分け、道なき道をまっしぐらに、その塔へ向かって走りだした。
  
  世尊が到着すると、塔の上部は大光明・だいこうみょう・の光輝き、内部からは、妙・たえ・なる大日如来の声が聞こえてきました。
  「善哉善哉、釈迦牟尼如来よ、本日の所行は極善の境界である。 又、妙光よ、汝も、大善利・だいぜんり・・え・たのである」。
   意味: 喜ばしい喜ばしい釈迦牟尼如来よ、本日の行いは善の極みである。 又妙光よ大きな功徳を得たものである。
  
  爾時世尊・にじせそん・ この時世尊は朽ちた塔に合掌礼拝し、右に・さんそう・(右に三回廻る)された。
  世尊は、上着を脱いで塔の上に掛け、ハラハラと落涙・らくるい・し給われた。 世尊の涙と血は交じって雫・しずく・となり垂れ落ちた。
           世尊の落涙が表現されているのは、数ある経典中で、ここの一行だけでありましょう ………… ボサツマン
  やがて、世尊は、又、元の如く、莞爾・かんじ・(こっこりと微笑む)され、大衆たちの方を振り返り、温かい眼差しを浮かべられた。
  この様子を見ていた十方世界の諸仏は、皆涙を流した。 諸仏の流した涙は、忽、光明化し光輝き、朽ちた塔を照らし出しています。

  満座の大衆は、この大瑞光相・だいずいこうそう・(喜び極まる光輝く有様)を見て口をアングリ開け騒ぎ驚いていた。
  そして、この大瑞光相が起きた理由を知りたいと、全員が思いました。
  この時、座中の金剛手菩薩こんごうしゅぼさつ不動明王)が、仏のみ前へ進み詣・いた・り、
  世尊、この光輝く現象は、どういう因縁に依るのですか? 我らを憐み、我らの疑問を晴らしてくださいと述べた。

  仏告・ぶつごう・仏(世尊)が告げ給う
  「この塔は、一切如来の全身舎利・ぜんしんしゃり・が、ギッシリと積み集まった如来の宝塔・ほうとう・である。
   この塔の中は、一切如来の無量の肝要・かんよう・(最も大切)の法である、心陀羅尼・しんだらに・ 心秘密・しんひみつ・の蔵庫である。
   この塔の中は、無量百千の如来身・にょらいしん・が、胡麻・ごま・の子のように、隙間無く満ちているのです。
   八万四千の仏の妙法のすべてが、この塔の中に満ちています。 つまりこの塔は、一切如来の全身舎利そのものなのです。
   故、この宝塔のある場所は、能満一切吉慶・のうまんいっさいきっきょう・つまり、全てが吉慶事に満たされるのである。

  爾時・にじ・ーその瞬間大衆聞仏是説遠塵離垢及随煩悩得法眼浄・だいしゅもんぶつぜせつおんじんりぎゅうずいぼんのうとくほうげんじょう・
   その時、仏が説いた法篋印塔・ほうきょういんとう・の由来因縁を聞いた大衆は皆、功徳を感応して清浄な心を得たのです。
   すると、大衆の今までの煩悩が消滅し、全員が、法眼・ほうげん・(真理を見分けられる澄んだ心の眼)を、得ることができました。

  だが、大衆たちの機根・きこん・は、さまざまに賢愚けんぐの違いあるため、各人の得た法果・ほうか・は、一様ではありません。
   須陀洹果すだおんか・を得た者や、斯陀含果・しだごんか・を得た者や、阿那含果・あなごんか・を得た者や、
   阿羅漢果・あらかんが・の位を得た者や、辟支仏・びゃくしぶつ・の道に到達した者や、菩薩の境界を得た者など、或は、
   「六波羅密・ろくはらみつ・を得て、満足した者などでした。 このように、大衆は皆、様々な利益・りやく・を得たのです。

  説明: 四向四果しこうしか  小乗仏教の四段階の修行。 向・こう・は修行の最中で、果・か・は、修行が終えた状態。
    須陀洹果 ー 貪瞋癡とんじんち・の煩悩・ぼんのう・を断ち、常楽我浄じょうらくがじょうへの邪見を排することができる位。
    斯陀含果 ー まだ僅かに残る煩悩を断ちつつある位。
    阿那含果 ー 煩悩を完全に断ち切った位、故、もう再び欲界には還らない。
    阿羅漢果 ー 修行の最高位で、永久的に涅槃界で生きる聖者。 今後、生死の果報は受けない位。

          まだ、オイラは、貪瞋癡から脱却できていないのだ、なさけない …… トホホ ボサツマン……  世尊・阿羅漢を説く

  又大善利・だいぜんり・を獲た妙光は、ー遠塵離垢得五神通・おんじんりくとくごじんつう・心が清浄になり穢れが消滅し五神通を得ました。
  この時、金剛手菩薩は、仏に聞いた                                                「六神通力
   奇なることです妙なることです、法篋印塔のことを少し聞いただけでも、こんなにも利益功徳が与わるのですね。
    ならば、この法篋印塔に、信心を至心・ししん・から起こし、尊い法篋印陀羅尼・ほうきょういんだらに・を読誦・どくじゅ・すれば
    幾許・いくばく・(どれほど)の功徳や霊験が与わるのでございますか?
   
     仏告・ぶつごう・仏(世尊)が告げ給う  「つづく