(1)この記事は痛みに対する大雑把な捉え方です。
2007年09月04日 「痛みに付いての一言(痛みの本態)」
本日は痛みなどの症状に付いての一言です。
このブログで度々登場する仙腸関節機能異常から来る痛みなどの症状に付いて、具体的に説明する機会が無いまま毎日症例等を書き込んでいますので、本日はその辺の事情をなるべく分かり易くご説明させて頂きます。
そもそも痛みなどの症状はどこから来るのか?、一般的な西洋医学では器質的(形態的・解剖的)な異常に原因があるとしてレントゲンやMRIなどにより、細かくその状態を観察し実際にヘルニアが存在すれば、痛みの原因に特定され「椎間板ヘルニア」と診断が下ります。
この状態はヘルニアが末梢神経を圧迫し痛みが出ていると説明されますが、実際はそうでしょうか?この説明には大きな矛盾がありその辺の事情は当院リンク加茂整形外科医院の加茂先生が細かくご説明されていますので、そちらの方を見て頂ければと思いますが、結論から言えば西洋医学が問題にしている器質的な異常と痛みなどの症状は関係ないという事です。最も大きな根拠は診断を受けた多くの方が、当院などや他の民間療法で症状が改善或いは完治をしているという事実で、本来器質的な異常が原因であれば当院などで症状が改善する事はなく、直接的に器質的な異常を処理する以外に症状は改善しません。
と言う事は原因が器質的な異常以外に存在する事を意味しています。広く症状を改善或いは完治している様々な施術を見ますと、方法論こそ違え殆んどが筋骨格系へのアプローチで、意識するしないに関わらず運動器系の機能的な異常を処理していますね。その辺の原理を西洋医学的に解明したのが、博田先生の理学療法AKAと先にご紹介した加茂先生ですが、操体法の創始者である故橋本敬三先生もその原理をかなり以前に推論として発表しており、一部ではありますが西洋医学の分野でも筋骨格系の機能的な異常が、痛みなどの症状と直接的に関係している事をそれぞれの立場で説明しています。
ここで言う機能的な異常とは筋骨格系の動き或いは働きの問題で、骨格で言えば関節であり筋系は文字通り筋肉となりますが、この両系何れかに動き或いは働きの異常が起こったもので、関節であれば一般的には「ズレ」であり筋系に於いては「異常緊張、筋スパズム、硬結など」と呼ばれている状態です。
この状態は一見別々の様に解釈されますが実際は相関連動的な関係にあり、先ず初めに身体の支持側である骨格(関節)にいつくかの要因により機能異常(ズレ)が起こり、原因関節に関係する筋群に筋スパズム(継続収縮、異常緊張)が発生すると言う関係になっています。この逆に筋の異常緊張から随伴的に関節が機能異常を起す場合もあり、この場合は筋の異常緊張を解消する事で関節の機能異常も回復しますが、関節の機能異常(ズレ)から来る筋系の異常は原発部位の関節を調整しない限り元に戻る事はなく、一般的な痛みなどの症状の殆んどは関節機能異常が原因のものです。
何れの場合も痛みの現場としては筋系にあり、関節機能異常により筋が異常緊張或いはスパズムが掛かる事で、軟部組織内が虚血から酸素欠乏状態になり痛みの物質が生産され、その物質を周辺の侵害受容器が受け取り脊髄から大脳へと痛みの情報を送るという仕組みです。これは侵害受容性疼痛と呼び殆んどの痛みの原因となり、西洋医学が問題にする器質的な異常による診断に関わらず、筋骨格系を正常にする事で症状が緩解する理由もここにあります。
少々乱暴で分かり難い内容となってしまいましたが、要するに一般的な痛みなどの症状は、初期の段階に於いては単純な問題で、複雑にしているのは西洋医学的診断にあり、実際筋骨格系を何らかの方法により正常にする事が出来れば、殆んどの場合症状は消失します。
(2)この記事は関節機能異常(関節のズレ)に付いてです。
2007年09月05日 「関節機能異常(仙腸関節と機能異常)」
本日も昨日に引き続き痛みに付いての一言です。
前回では痛みの原因を簡単にご説明しましたが、今日はこのブログで度々出てくる仙腸関節機能異常に付いてのお話です。関節機能異常が直接痛みなどの症状と関係している事は昨日のブログでご紹介しましたが、この関節機能異常はどの関節にも起こると言う訳でなく、特定の条件があります。最も大きな要因は関節可動域の問題であり、極端に可動域が小さい事、さらに姿勢或いは動作に於いて支持側の関節にほぼ限定し、その条件を満たすものが骨盤の仙腸関節と脊柱の各関節と言う事になります。
通常の関節は動きが主体の構造ですが、この骨盤と脊柱の各関節は単体での動きはごく僅かで、特に仙腸関節に於いては、一昔前までは不動関節として理解されているほど関節の動きは小さいものです。しかも上体の体重を支える構造的な働きの為、上体の自重はこの関節が主に受ける事になり、二足直立の基礎構造に於いては、姿勢或いは動作に関わらず常に腰が中心となりますので、骨盤脊柱の支持関節中、仙腸関節に最もストレスが掛かる事になります。この理由により機能異常が発生する何らかの問題が起こった場合、当然最もストレスを受ける関節が影響されますので、構造運動力学的にみて仙腸関節に機能異常が起る確率が第一になる訳です。
また構造的にみましても特殊な関節で関節面は凹凸になり、動きが制限される仕組みで通常の関節とは反対に動かない様に設計されています。これは体重を支える構造となっており一般的な関節の逆の働きですので、容易に機能異常が起こらない様になっていますが、操体法で教える長時間の同一姿勢、繰り返し行なう作業、急激なスポーツなどの動作、転倒や落下などの直達外力が加わる事で、通常の関節可動域を超え「関節の遊び」の範囲までズレてしまい機能異常が起こります。この関節の遊びと呼ばれる部分は不随意運動領域で、通常の関節の動きでは干渉せず、一旦関節に機能異常(ズレ)が起こりますと、カイロや一部の整体の様に施術者が他動的に矯正を行なうか、或いは操体法で行なっている随意運動に抵抗を加える以外、元の正常な状態に戻る事はありません。
先に動作或いは姿勢に於いて腰が中心的となり、仙腸関節が最もストレスを受ける事をご説明しましたが、この四つの条件に当てはめてみますと、「長時間の同一姿勢」「繰り返し行なう作業」は同様で、座位或いは立位での作業、特に座位の場合は自重が直接仙腸関節に掛かる事になり、利き手の関係上作業により僅かな回旋動作が加わりますので、繰り返し行なう事で序々に仙腸関節に影響し、月単位或いは人により年単位で機能異常が発生します。また「急激なスポーツなどの動作」と「転倒や落下などの直達外力」もまた同様で、何れの場合も通常の何倍かの自重が急激に仙腸関節に掛かる事になり、スポーツなどの場合主に上体の動きは左右何れかの回旋動作となりますし、転倒などの直達外力にしましてもスポーツには付きもので、この場合も上体は僅かに回旋動作が伴う事になり、やはり捻りが急激に加わる事で機能異常が発生します。
仙腸関節機能異常が起こる最大の要因は自重による上体の捻りで、この動作により序々に或いは急激に自重が加わる事で機能異常が発生しており、これらの要素はすべて日常生活の中にあり特別なものではなく、どなたでも仙腸関節機能異常を発生する可能性があります。
(3)この記事は取れ難い痛みなどの症状に付いてです。
2007年09月06日 「難治性の痛みとその背景」
本日も3回連続となりますが痛みに関連して難治性の痛みのお話です。丁度好都合と言いましょうか、本日ご来院の00さん2週間前に脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアの手術を受けられ、術後の経過も良好で症状も殆んど治まり、本日の主訴は痛みではなく、腰の骨(腰椎)が変に動く様な感じがあるそうで心配されての御来院です。
この場合当院ブログで痛みの原因を、関節機能異常とご説明して来た事に矛盾がある様な症例ですが、実際手術により症状が改善する方も多くあり、一見西洋医学的診断と治療の正当性があるかの様に思われる方もいるかと思いますが、痛みなどの症状が取れるメカニズムは別に存在します。
当院では痛みなどの原因に付いて、関節機能異常から来る筋スパズムが直接的な原因と説明していますが、その他の要因として繰り返し痛みを感じる事で、脳が痛みの情報をストックしパターン化してしまう「痛みのパターンファイル」と、情動的な問題として「怒り」などの感情が直接交感神経を亢進させ、血管の収縮が起こり酸欠から痛みを作るものがあり、慢性期や難治性の痛みなどの症状は殆んどこれらの問題が絡み合っています。特に手術を要する段階では痛みに対して相当苦しんでいますので、「痛みのパターンファイル」と「情動的な痛み」が強く関係しており、この意味で考えますと主因は物理的な問題ではなく、むしろ心理的なものになっています。その辺へのアプローチが重要となりますが、当院リンク加茂先生のサイトに日本医科大学教授の吉野先生の仮説「脳内リセット」が紹介されています。一部要約致しますと手術で用いる全身麻酔が脳をリセットする働きがあるとの仮説で、実際実験データーでは証明されていますが、これを「痛みのパターンファイル」当てはめますと、手術で痛みなどの症状が取れる原因が、この「脳内リセット」による脳の初期化が一つの大きな力になっている事が理解できます。
また「情動的な痛み」に関してはさらに重要で、感情の動きは常に「心」にあります。この心の働きを実験したものが同じく加茂先生紹介の広瀬弘忠先生「心の潜在力プラシーボ効果」で、この記述は以前にも紹介しましたが、信じる信じないを問わず実際に起こった事実が重要で、心の働きにより火傷の症状が現れると言うものです。実験内容は被験者の方に催眠術によりアイロンを額に当てると暗示を与え、実際は鉛筆で触れるだけですがその瞬間火ぶくれが起こり、数日後にはかさぶたが取れ回復するといもので、この実験を4回行い何れも同じ結果であったそうです。
これはニューヨークのコロンビア大学医学部での実験ですので、客観的には信頼のおけるものでありますが、これを椎間板ヘルニアなどの手術に置き換えますと、先ず画像診断により実際にヘルニアが移っている状態を視覚的に確認すると共に、担当医師より痛みの原因として説明される事で、患者の方は疑いもなくその説明を信じます。「ヘルニアの手術をすれば痛みは取れる」とこの段階で暗示が入り、手術という物理的な処置がさらに暗示を強め、この暗示の力(プラシーボ効果)により生理的な働きが正常に戻る事で、痛みが取れると言う説明が成立します。
以上この二つの要因により手術に於いて痛みなどの症状が取れているものであり、実際は原因となっている筋骨格系の機能異常にはアプローチしていませんので、条件が揃えば何時でも再発する事になり実際多くの方が再発しています。難治性の痛みなどの症状は筋骨格系の異常がベースにはありますが、この段階になりますと「痛みのパターンファイル」と「情動的な痛み」が主因となり、心理・社会的因子が強く影響しますが、その影響を感受するのはご本人の心の方向性で主体性は常に心にあり、最終的にはこの心にアプローチする事がどの様な症状に於いても重要になります。
(4)この記事は画像診断に付いての矛盾点です。
2010年6月21日 「ちょっと復習です(画像診断の矛盾)」
一般的に身体のどこかが痛みますと、取りあえず整形の先生の所に行かれますね。これは何も知識がなければ当然で、先生もその原因を探る為、レントゲンなどを撮り異常がないかを調べます。例えば膝が痛ければ膝のレントゲンを撮るという具合です。
これは膝以外の部位でも同様ですが、そもそも西洋医学は解剖学が基礎となっていますので、痛みを持っている内部に原因を求める事になります。これはこれで必要なのですが、問題は器質的な異常を診断の基準としている為、内部の病態が痛みの原因とされている事です。
特に整形外科に於いては器質的な異常として形態学的変化を問題にしていますので、関節や椎間板の変形、或いは脊柱管の狭窄などが異常と言う事になります。昨今はこれではとても説明困難な為、機能的な異常も問題にしていますが、これは生活習慣から来る不自然な姿勢や心理的要素などで、機能的と言う意味とは違うように感じます。それでも昔に比べれば大分進歩していますが、本来「機能的」という言葉の意味は、関節や筋肉の動き、或いは働きを指すもので、姿勢や心理的な要素とは別物です。
と、前置きはこの位にして、痛みの原因が西洋医学の言う器質的な異常であれば問題はないのですが、本当にそうでしょうか。答えは「いいえ」です。これは整形の先生であれば日常的に経験しており、レントゲンでの画像診断で、例えば膝の変形があったとすれば、「変形性膝関節症」と言う事になります。ところが痛みの程度と関節の変形が比例せず、僅かな変形でも激痛を訴える方から、かなり変形が進んだ方でも無痛の場合があり、この辺の矛盾は説明されていません。さらに器質的な異常なが無い場合は「異常なし」と言う事になり、実際痛みがあっても治療が出来ないと言う事になります。これって変ですよね。
この辺は心理的要素がベースにあるのは勿論ですが、椎間板ヘルニアの診断で髄核が左に突出しているのに症状は右脚、或いは関節の変形同様、ヘルニアがあるにも関わらず痛みやしびれなどの症状が出ていない等々、器質的な異常を原因とするにはあまりにも矛盾が多すぎます。
最近は心因性という言葉で説明される先生もおられますが、それでは器質的な異常はあってもなくてもよいという事にもなり、そもそもの診断が意味を持たなくなります。最も究極的には「心主体従」の原理からみれば正解なのですが。とは言うものの「火の無い所に煙は立たない」ですので、痛みなどの症状が出るには物理的な問題があるのは当然です。
どうでしょう。少々ややっこしいお話ですが、要は器質的な異常では説明できない症状がありながら、旧態依然として同じ事を繰り返している事が問題ですね。これは整形の先生を責める訳ではなく、医学教育の問題で、先生ご自身は真剣に診断し、習ったとおりに処置をしているだけですが、臨床的な矛盾に対しては不感症のようです。
(5)この記事は痛みの本態を新たな視点から解き明かされた加茂先生の理論です。
2010年6月23日 「ちょっと復習です(痛みの本態)」
前回に於いて、痛みが器質的な異常から発生するには矛盾がある事を診て来ましたが、それではいったい痛みなどの症状はどこから来るのか?と言う事になります。この辺の事情を分かりやすくご説明されているのが、石川県小松市で開業されている「加茂整形外科医院」の加茂先生です。先生は画像診断の矛盾点を指摘すると共に、臨床的な経験から殆どの痛みの正体が「筋筋膜性疼痛症候群」である事を確認されています。
筋筋膜性疼痛症候群とは読んで字の如し「筋肉或いは筋膜の痛み」と言う事で、広義の意味では「筋肉痛」になります。「え〜、筋肉痛、神経や椎間板の異常じゃないの?」との声も聞こえてきそうですが、これは事実です。加茂先生は整形外科医ですので、医学的な根拠を引き合いにだされ、器質的(主に形態学的)な問題が、痛みと直接関係するものではない事を繰り返しご説明されています。具体的な内容は加茂先生のホームページをご覧頂ければと思いますが、簡単にメニューをご紹介しますと、「ヘルニアと言われたら安心です」或いは「画像診断の意味と限界」さらに「従来の腰痛指導は無意味?」などなど、その内容は一般的な整形外科的診断を少なからず否定するものです。現時点ではまだまだ少数派の意見ですが、徐々に広まりをみせており、加茂先生のリンクにも複数の医療機関が登録されています。
さて痛みの本態はと言いますと、広義には「筋筋膜性疼痛症候群」となりますが、そのメカニズムは「侵害受容性疼痛」と言う事になります。これは筋肉が何らかの原因により損傷或いは継続収縮(異常緊張)する事で、血管が収縮し、組織が酸素欠乏状態となるものです。この状態が続きますと周辺の組織から「発痛物質」が生産され、これを侵害受容器が受け取り脳に痛みの信号を送ると言う段取りです。またこれに痛みに対する不安、或いは怒りなどの感情を持ちますと交感神経が亢進されますので、血管の収縮が起り、こちらのメカニズムからも組織が酸欠となり、同じく発痛物質が生産され痛みを感じる事となります。
単に痛みと言っても物理的な問題と心理的な問題の両面から起りますので、この辺が痛みを複雑にしています。さらにある期間痛みが取れない状態が続きますと、脳が痛みの情報を記憶しますので、所謂「痛みのパターンファイル」が形成され、条件反射としての痛みも加わる事になります。ここまで来ると「痛みの悪循環」と言う事になり、場合によってはうつ状態になる方もいますので、物理的な療法だけでは手不足になる事もあります。
どうでしょう。痛みの本態を理解されましたか。筋骨格系の症状はその殆どが侵害受容性疼痛である事は間違いなく、その根拠は一部のカイロや整体の手技で痛みなどの症状が回復していると言う事実です。本当にヘルニアや狭窄症が原因であれば、これらの手技を行いましてもヘルニアが無くなる訳ではありませんので、症状も変化しないはずですね。何より、ここでご紹介させて頂いている加茂先生が「トリガーポイントブロック」により、多くの診断名が付いた患者さんを回復させていると言う事実です。「論より証拠」とはよく言ったもので、臨床に於ける効果が全てを物語っています。
(6)この記事は筋骨格系の相関関係に付いてです。
2010年6月25日 「ちょっと復習です(筋系と骨格系)」
前回に於いて痛みの本態が「侵害受容性疼痛」である事を診て来ましたが、加茂先生は全ての原因を筋系に求めており、これでは不十分ですので、ここで操体法の橋本先生の登場です。
加茂先生の理論は惜しいかな骨格に対する認識が欠けています。痛みの本態としては侵害受容性疼痛で落ち着きますが、その発生原理が曖昧で、加茂先生をしてその原因を、不意の外傷や過度な運動、或いは姿勢や生活習慣から来る筋の微小損傷が始りとしています。当然外傷や過度な運動を行えば筋が損傷する事は容易に想像できますが、姿勢や生活習慣、特に姿勢が原因で筋が微小損傷するとはちょっと無理があるように思われます。ちなみにトリガーポイントとは筋硬結の事で、その特徴を索状としていますが、はたして姿勢の問題で局所の筋系に索状の筋硬結が出来るでしょうか。はなはだ疑問です。
この辺を整理したのが操体法の故橋本敬三先生です。筋骨格系はコインの表裏ですので、本来は離れて考えるものではなく、相関連動装置として働くもので、橋本先生は「人間―この動く建物―には構造運動力学が作用する。ストレッサーにより、骨格の組み合わせがズレると、これに連動する横紋筋に異常緊張が起る。」として、筋骨格系を一つのものとして捉えています。これは骨格系と筋系を結び付ける理論で、加茂先生の言われる筋の損傷から起る硬結もありますが、それよりも関節のズレから起る筋の異常緊張の方が一般的と思われます。
と言いますのは関節がズレる原因として、長時間の同一姿勢、繰り返し行う軽作業、急激な動きを伴うスポーツや運動、転倒や落下などの直達外力がありますが、これは特定(半関節)の関節にあてはまるもので、その主たる関節は仙腸関節です。二足直立の基礎構造に於いては、姿勢、動作の中心が腰になります。この為、常に上体の重みを受ける働きの仙腸関節が人体中最もストレスを受ける事になり、必然的にズレが起り易くなります。また筋系は姿勢或いは動作において活躍しますが、休息する事が回復できますね。それに比べ骨格系は、自重に対して支持側になりますので、24時間365日体重を支える事になり休み無しです。この理由により、筋系に問題が起るよりも骨格系に問題が起ると考えた方が自然です。
次に橋本先生は「筋の異常緊張が持続すれば、これらを包接する軟部組織には内圧の変化が起る。内圧の変化が起れば、系統配線の抹消循環系および神経系は一次的には力学的に、二次的には生化学的に、アンバランスを生じる。血液循環障害は酸素欠乏をもたらす事にもなる。受信機はこれらを異常感覚として受け取る。かくして機能障害に進む。」とし、加茂先生が示した侵害受容性疼痛に言及されています。
どうでしょう。筋骨格系は本来一つのもので、相関連動装置としてお互いに影響する関係にありますが、流石には橋本先生は達見ですね。この辺の診立ては他の療法には見られないものですが、今迄の拙い私の経験でも橋本先生の理論は確認済みで、ほぼ誤りはないものと思われます。ちなみに私の所のもう一つの柱である理学療法AKAの博田先生は、痛みのメカニズムには今だ未解決ですが、仙腸関節機能異常を調整する事で、腰痛をはじめ様々な症状を快復させています。この臨床的事実を見ましても、骨格系に異常が起こっているのは明白です。
(7)この記事は直接痛みとは関係ありませんが、巷でよく言われている姿勢と歪みに付いてです。
2007年09月11日 「姿勢の問題」
よく聞く話ですが、肩の高さが違う或いは骨盤がズレている?等々、姿勢に付いて気にされている方がおりますが、顔の形が違うように骨格に於いてもご両親から頂いた設計図があり、様々な形が存在し決して同じ骨格はありません。その意味で先天的な問題として猫背タイプの方や、脊柱が真直ぐの方或いは逆に前後の弯曲が強い方など様々で、それ自体を症状の原因として問題にする事は的を得たものではなく、整形外科などでレントゲンにより首が真直ぐ(ストレートネック)な為、肩に負担が掛かるとか或いは椎間板が影響され易いなどと説明される場合がありますが、これは構造的な特徴で異常ではなく直接症状と結び付くものではありません。
脊柱全体の構造的な形態に付いては、大きく分けて2種類に分類され、欧米の方に多い前後の弯曲が強いタイプと、日本人などに多い比較的真直ぐなタイプになりますが、これは仙腸関節の関節面(耳状面)の形状に依るもので一つとして同じものは無く、各個人には形も大きさも角度も異なる脊柱の構造となりますので、脊柱の弯曲を問題にする事自体がナンセンスです。
さて、今度は所謂身体の歪みに付いてですが、ごく一般的な診断名で「側弯症」と言うのがあります。これは小学生の高学年から中高生位にかけて発症し易く、脊柱が初期段階ではC状に側湾し次第に代償作用によりS状へと複雑化して行くもので、この様な場合でも一時的に腰などに痛みが出る方もおりますが、それも人により様々で一様に症状が出る訳ではなく、変形(歪み)の度合いと痛みなどの症状も比例しません。
また後天的な姿勢の問題としては利き手がポイントになり、日常生活では利き手を中心とた動作となりますので、無意識に特定の動きが繰り返される事になります。上半身の動きを見ましても一般的には右利きの方が大多数ですので、右手を伸ばす動作が主となり、操体法の故橋本先生も右手利きの一般的法則とて、右手での作業を繰り返す事で物理的に右半身が伸び、左半身が短縮するとご説明されております。これは日常生活では殆んど意識しませんが、球技などのスポーツを見ると明らかであり、野球やゴルフなどの場合上体の主動作は左回旋になりますので、右半身が伸び左半身が縮む動きになります。
この様に元々左右上半身は用途が違い同じ様な使い方はしていませんので、全体的に見て特有の動作から来る形となり、その結果肩の高さや骨盤の傾きが起こります。この様にむしろ多少左右差があるのが自然ですので、必要以上に気にする事はなく誤った情報に振り回されない事です。
私などもよく経験しますが姿勢の良い方でも痛みを持ちますし、また側弯症の方でかなり変形が高度になっても無痛の方もおり、形と痛みなどの症状を直接的に結び付けるには矛盾が多すぎます。然しながら、一般的な姿勢を痛みなどの症状の原因とするには無理があるのですが、継続的な作業により極端な前傾姿勢で腰が曲がった状態で安定した場合、動作制限と姿勢保持の問題から痛みが出る事があります。
この問題は局所の関節などにも同様で、変形性の関節症などに於いても変形の程度と症状は比例せず、動きの制限はありますが痛みが出ない方もおり、基本的に西洋医学が異常と考える器質的(形態的・解剖的性質)な問題では説明が付きません。この様に姿勢或いは変形性関節症に於いても、痛みなどの症状に付いては必要条件にはなりますが絶対条件にはなり得ず、前項でもご説明させて頂きました通り、筋骨格系の機能的な異常が問題になります。
(8)この記事は筋力と痛みとの関係に付いてです。
2007年09月12日 「筋力低下と痛みとの関係」
本日は昨日姿勢に付いて書かせて頂いたので、これもよく言われる筋力と痛みなどの症状に付いての一言です。この問題も一般的に誤解されている話で、姿勢同様痛みなどの症状に対して筋力は必要条件ですが絶対条件ではありません。腰痛で整形を受診された方が、レントゲンなどで異常が診られない場合「腰痛症」と診断され、その原因が筋力の低下に依るものとしてよく先生から言われる言葉に、「腹筋と背筋を鍛えて下さい」と指導されますが、実際痛みを持っている方は困難ですし、仮に鍛えたところで症状とは無関係です。
西洋医学的には筋力が低下する事で脊柱(腰椎)に対する筋系の支持力が低下し、関係関節並びに関節軟部組織に過度のストレスが加わる事で痛みが出るとの説明か、同じく筋力低下により姿勢保持や動作により筋疲労が起こる事で痛みが出るとされています。この理論が正論であれば実際に筋力が弱い方はすべて痛みが出る事になり、その意味では少々飛躍しますが、小学校の低学年までのお子さんは殆んど全て筋力に関しては軟弱で、しかも運動量は大人の何倍もの動きを行なっていますが、この年代の子供たちが腰痛になった話は聞いた事などないですね。勿論単純に大人と比較する事は無理もありますが、少なくとも筋力の問題が痛みなどの症状と関係するのであれば、少数例でもこの時期に痛みが出ても不思議では有りませんが、転倒や衝突など直達外力以外に所謂腰痛症としては皆無です。
これは一般的な成人男女でも同様で、所謂きゃしゃな体形の方も多く、特に女性は腹筋や背筋或いは腕立てなど殆んど出来ない方もおりますが、全ての方に症状が出る事はなく、運動不足や筋力低下を原因とするには少々無理がありますね。またお年寄りに付いても同様で、加齢と共に全ての方は例外なく筋力が衰えますが、筋力低下が原因であればこれもまた全ての方が痛みを持つ事になり、一見最もらしい理論ですが痛みを持たない方も多く納得できる説明にはなってません。
さらに筋力の強い方に腰痛が現れないかと言いますと必ずしもそうではなく、スポーツなどで身体を鍛える方は多くおりますが、運動をすればするほど痛みも持ち易くなり、プロのスポーツ選手ほど痛みに悩まされているのが現状で、過度の運動は筋力を付ける事は出来ますが、筋肉の量と痛みなどの症状は比例するものではなく、これもまた痛みとは直接関係しません。
少々乱暴な説明になってしまいましたが、実際筋力低下が問題になるのは筋力を使う作業やスポーツで、一定レベルの筋力が必要とされた場合です。一般的な生活の中では生活労働に於いて必然的に個々の筋力はそれなりについていますので、いわゆる筋力低下とか加齢による問題で症状が出ているのではなく、痛みなどの症状と直接結び付く原因は筋骨格系の機能的な異常と言う事になります。
この問題も姿勢同様痛みなどの症状に対しての必要条件で、筋力も無いよりはあった方が良いのですが、あくまでも予防予後の観点から痛みの守備範囲が広がるだけです。その辺の事情を理解しませんと身体の為にと始めたスポーツやトレーニングにより、返って痛みなどの症状を作る事が多々ありますので注意が必要です。
(9)この記事は体の柔軟性と痛みに付いてです。
2007年09月13日 「身体の柔軟性と痛み」
健康ブームが定着し、スポーツセンターやカルチャー教室ではヨガや各種の健康体操、或いはちょっと前にはバランスボールなどが盛んに行なわれていました。これはこれで良い事ですが、これらの運動療法は主に身体の柔軟性を高める事が目的で、体を柔らかくし血流を改善する事で、東洋医学的に診れば虚血状態が解消し健康な身体になるとの理論です。確かに筋肉が硬い場合は軟部組織に於いて内圧が高まり虚血から酸欠になる事で機能低下が起こり、様々な症状の温床になっていますので、真向法などの運動療法により健康になられる方もおりますが、身体の柔軟性と痛みなどの症状は直接的に関係するものではありません。
柔軟性を高める事は必要条件ではありますが絶対条件ではなく、前回前々回とご説明させて頂いた姿勢と筋力の問題同様、痛みなどの守備範囲が広がりますが予防としては不十分です。実際当院などにもヨガの先生や健康体操の先生が坐骨神経痛や腰痛でご来院頂いており、当然生徒さんの前ではご自身の症状は言えませんので、習う方にとってはその事実を知る由もありません。また身体の柔軟性が高い方が一旦痛みなどの症状を持ちますと、痛みの守備範囲が広い為手技に対する反応が悪く、逆に痛みなどの症状が取れ難い傾向にあります。
一般的にヨガなどのストレッチ系運動療法は、一見身体に良いものと思われていますが、実際は筋骨格系のメカニズムを理解している先生は殆どなく、ヨガに限らず巷に普及している運動療法系の先生や、ケアープラザなどで教えている健康体操の先生も同様で、健康の為にと始めた事で人により痛みを作る方がおります。
実際姿勢が良くても、、筋力があっても、、柔軟性が高くても、痛みなどの症状は条件さえ揃えば何時でも起こります。何故ならその根本原因は骨格系に於ける関節の機能異常にあるからです。これは姿勢や筋力或いは柔軟性の影響は受けますが、あくまでも必要条件程度のもので、関節機能異常が起こる条件さえ揃えば、この三要素に関係なく、痛みなどの症状はいつでも出ます。
根本的には原発部位の関節機能異常を解消しない限り症状に変化はなく、ストレッチ系の運動療法などでは問題を持った関節の機能異常(ズレ)は元には戻りませんので、一時的には楽になりますがまた元に戻ると言う事になってしまいす。しかしこの三要素はここにお書きした通り身体的には必要条件で、姿勢に付いては歪体よりは正体が良く、筋力或いは体の柔軟性に付いても無いよりはあった方が良いのは当然ですが、こと痛みなどの症状と結び付ける事に問題があり、その結果症状の回復を遅らせているのが現状です。
(10)この記事は筋骨格系の異常と不定愁訴に付いてです。
2007年10月17日 「運動器系と不定愁訴」
本日は運動器系(筋骨格系)と自律神経失調症の様な不定愁訴に付いての一言です。
一般的に不定愁訴とは、西洋医学的に診て原因が特定出来ない症状全般を指し、その症状も多岐に亘り「身体がだるい」「頭が重い」「疲れが取れない」「めまい」「動悸」などなどその状態は様々で、主に一般内科や心療内科での治療となり、薬物療法や心理療法などが行なわれています。
この状態は心理的要素が強く働き、自律神経のバランスが関係している事は西洋医学的にも説明されていますが、もう一つの原因として運動器系の機能的な異常があります。運動器系とは筋骨格系に対しての総称ですが、この筋系と骨格系はコインの表裏の様な関係で相関連動的に働き、離して考える性質のものではありませんが、主体性は骨格系にあり筋系は従属的な関係となっています。この場合先ず骨格系の中心的役割である仙腸関節に機能異常が起こります。
この辺の事情は度々このブログでご紹介していますのでここでは省略しますが、一旦仙腸関節に機能異常が起こりますと、骨盤の関係筋群に筋スパズムが発生し、時間的経過と共に同側の筋系全体に広がります。この状態は機能異常が起こった何れかの半身が筋スパズムにより継続収縮が起る為、軟部組織内が血管の収縮から酸欠状態になる事で、生理機能がアンバランスを来たし機能障害へと進み、所謂不定愁訴なるものが現れると言う事になります。この辺のメカニズムは操体法の創始者である故橋本敬三先生がすでに解明されております。
東洋医学や民間療法で自律神経失調症の様な不定愁訴が解消される事がありますが、これは軟部組織の虚血から来る酸欠状態をそれぞれの方法論で解消しているものです。東洋医学が言うところの未病と言われる状態は、まさに組織の酸欠であり、殆んどの病はこの状態が長期間続いた結果器質破壊に至ったものと推察されます。
「上工は未病を治す」の教えは予防医学的に診て最も重要なものですが、運動器系に於ける筋骨格系はその意味で基礎となるもので、愁訴の裏側での主役である可能性があります。
(11)この記事は身体に現れる一般的な痛みに付いてです。
2007年11月07日 「痛みに付いての一言 その2(関連痛)」
本日は関連痛に付いての一言です。
このブログで度々ご紹介しておりますが、一般的に身体に現れる痛みなどの症状は、その殆んどが仙腸関節機能異常から来る関連痛で、局所の異常として感じている部位に直接原因がある訳ではありません。単純な例ですが膝に痛みが出た場合、先ず始めに整形を受診される方が殆んどで、レントゲンなどによる画像診断でその状態を観察し、何か器質的な異常が認められれば診断名が付く事になります。これは「木を見て森を見ず」の言葉の通り、局所に囚われ全体を把握していない為で、痛みなどの症状に対しての理解が低く偏った理論に依るものですが、一般的な西洋医学を先頭に接骨院や多くの民間療法が対症療法に終始しているのが現状です。
これは「局所の器質的な変化=異常」との認識から来ており、そもそもが根本的な誤りで実際は筋骨格系の機能的な異常が関係し、その中心的な役割が骨格系であり、筋系の問題は関節機能異常による随伴的な状態です。この関係を理解する必要がありますが、現在、筋骨格系の相関関係を正確に捉えている療法は私の知る限り多くは無く、その中で操体法の故橋本敬三先生の理論が最も的を得ている様に思われます。
橋本先生はそのご著書の中で、ストレッサー(長時間の同一姿勢など)により骨格の組み合わせがズレる結果、関係筋群に異常緊張が起こるとし、筋系の異常は関節のズレに起因するものである事を指摘されております。この関係は相関連動的に働き筋骨格系を一つに結び付けていますが、現在多くの療法は筋系主体のものと骨格主体のものに分かれており、この辺のメカニズムに付いては理解が不十分です。
また痛みの原因として橋本先生は、骨格のズレから来る筋系の異常緊張が、軟部組織の内圧を物理的に高める事で血液循環障害が起こり、その結果酸素欠乏状態に陥り生理的変化が起こるとしています。この理論は当院リンクでお世話になっている加茂先生が、殆んどの痛みなどの症状の原因としている「侵害受容性疼痛」と同じ説明をされており、現在では医学的に橋本先生の理論が証明されています。
ここで問題になるのは軟部組織の異常ですが、これは局所に現われますが原因ではなく、仙腸関節機能異常から来る筋スパズムが胸椎或いは頚椎などに二次性の機能異常を起した結果であり、対症療法的に局所を処理しましても症状に変化が無い事があるのはこの為で、また逆に原発部位の仙腸関節へのアプローチで四肢末梢の症状が軽快する理由もここにあります。西洋医学の一分野である博田先生の理学療法AKAで行なう仙腸関節の手技や、理論的には異なりますが根本先生の連動操体法に於ける大腰筋の操法で、様々な症状が消失するのはその原因が局所に由るものではなく、仙腸関節の機能異常が根本的な問題の為です。
このメカニズムはAKAの博田先生が臨床的に追試を重ね、骨格系と痛みなどとの関係を明らかにされ、従来の西洋医学的診断の矛盾と問題点を解明しております。当院に於いても基礎理論として応用展開する事で確認していますが、実際様々な身体に現れる症状は仙腸関節機能異常から来る関連痛であり、何れに症状が出ましても多くの手技は必要とせず、1〜3の手技で解消する事が一般的です。
東洋医学の世界でも針灸の名医は身体に現れる痛みなどの症状を、「針は三穴」の言葉の通り、殆んど全て3箇所に針を施術する事で解消すると言われていますが、実際身体のメカニズムを把握すれば当然で、方法論こそ違え洋の東西を問わず原理を理解した方は、よりシンプルな方向に向かいます。