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「バラナシでの部屋探し」 (P) 

不動産屋のないインド
 バラナシには、日本でいう不動産屋というものがない。では部屋を借りるにはどうするかというと、知っている人に声をかけて聞く、自分の足で探すということになる。
 着いてすぐ、ガンジス河の一番はずれにあるガート(ヒンドゥー教が沐浴をするところ)ぞいにあるホテルに入り、部屋探しをすることにする。
 まずは、ヒンディー語の先生のところへ、二部屋ほどで、キッチン、バス、トイレ付きの空き室があったら教えて欲しいと頼みに行く。すぐ近くに空いている部屋があるというので、見に連れていってもらうが、水まわりが使いにくそうだし、家が建て込んでいて騒がしそうに思われる。猿も多いとのこと(バラナシは猿が多く、部屋に入ってきたり、洗濯物をいたずらするので、猿が来るとインド人は棒で追い払っている)。
 次の日は、今年の春滞在していたときに知り合った日本人が住んでいた部屋が、空いているかどうかをチェックしに出かける。残念ながら、二部屋ある場所にはもう別の人が入っているとのこと。
 二軒目にいったところも、一部屋でトイレは共同なので、とても二人では住めないと断られる。けれども、そこがインド人の親切なところで、どこかに電話をして部屋について尋ねてくれる。そのとき聞かれたのは「チキンを食べるか」ということ。ここバラナシでは、肉を買ってきて部屋で調理をするという機会はほとんどないと思われたので、「ノー」と答える。たぶん大家さんは菜食主義者で、貸した部屋で肉を調理されたら困るということだろうと判断する。その家の息子が案内してくれてすぐ近所の家に行く。ここは広い部屋が四つほどあり、今度は二人で暮らすには広すぎるし、部屋代も高いだろうと思われた。

コピー屋で部屋探し
 日中は陽射しが強いので、この時点でもう疲れてしまい、今日はここまでとして帰りにコピー屋に寄る。大学へ出す入学願書がほしいという請願書のコピーをとるために行ったのだが、コピーが終わったあと、以前この店に外国人に部屋を貸します、という張り紙があったのを思い出し店の人に聞いてみる。その張り紙はもうなく、店の人もわからないとのこと。すると少し前にコピー屋に入ってきて、私たちのやりとりを聞いていたお兄さんが、自分のことろに空き部屋があるという。「この近くか」と聞くと「そうだ」というので、このお兄さんに連れられて見に行くことにする。コピー屋から200m先のチャイ(紅茶)屋とパン屋(朝夕おじいさんが店を開き、昼間は閉まっている)の間にある木戸をくぐると庭になっていて、そこに平屋の一戸建てが二軒あり、手前の家へ案内される。
 部屋の広さは12畳ほどで、キッチン(2畳)とシャワートイレ(2畳)が別についている部屋だった。ごちゃごちゃした道を一歩入るとこんな静かなところがあったのかと驚かされる。押入れのように大きな物入れが備え付けられており、ベッドと机、椅子も貸してくれるとのこと。
 バラナシ(たぶん他のインドの土地でも)で部屋を探すとき、注意した方がいいのは安全性と24時間水がでるかどうかということ。この家は、安全性に関しては隣の家にスペイン人女性が一人で暮らしていて、夜10時を過ぎると内側から彼女が鍵をかけるということだし、木戸の横のお店の人たちが人の出入りを見ているだろうから大丈夫だと思われた。水については、タンクがあるので24時間OKとのこと。そうこう話をしているうちに、体格のいい髭を蓄えた男性がやってくる。連れてきてくれたお兄さんが「バラー・バーイー(お兄さん)」と呼ぶ。大学でロシア語を教えているというが、うさんくさく感じられてしまう。はじめは1000ルピー(1ルピー=約3.3円)の家賃で電気代も含まれるという話だったが、この人がいうには家賃は月1000ルピーだが、それに電気代と扇風機代(天井に着いている)がプラスされるとのこと。
 この春しばらく住んでいたところは民家の密集したところで、一日中うるさくて参ったので、すぐそばに家がなく緑があるという環境は魅力的に思われた。家賃もまあまあだし、ホテルに一日200ルピーを払い、外食をすることを考えたら、とりあえずはここに入り、ゆっくりと二部屋あるところを探すのがよいと思われた。
 さて、いったいあそこの家の大家さん、持ち主は誰なのか、もしかしたら他人の家をだまして貸そうとしているのではないか、といった疑問が湧いてきた。そこで夕方、大家さんを確認するために再度行ってみた。出入り口のチャイ屋のおじさんはすでに私たちのことを知っていて、「大家さんに会いたい」というと呼びに行ってくれた。はたして現れたのは、昼間会った男性だった。彼が大家さんであることや家賃を確かめ、翌日無事引っ越すことができた。

入居手続きは一切なし
 日本で部屋を借りるとなると、契約書を交わし保証人も必要となるのだが、今回持ち主は、いきなりやってきた外国人である私たちの名前を聞いたくらいで、口約束のみで部屋を貸してくれた。引っ越した翌晩やってきた大家さんに一ヶ月分の家賃を渡して済みである。
 ここ(ガンジス河へは歩いて5分ほど)に引っ越して一週間が過ぎようとしているが、好奇心の強いインド人と距離が置けるし、目の前はきれいな花の咲いている庭なので快適である。しかしここはインド。問題もあることがわかってくる。まずは、造りのせいか家の中にほこりや虫(とくにアリ)がどんどん入ってきてしまう。床がコンクリートのままなので今一つ落ち着かない。未明から近くのヒンドゥー寺院兼宿泊所より、マイクを通しての大きなボリュームで流れる歌が延々と朝6時過ぎまで続くということもわかった。
 毎朝、庭に祭壇に供える花や草を摘みにやってくる大家さん(道路を挟んで向かい側の家に住んでいる)はこちらの生活に入り込んでくることもなく、今のところよい人である。  部屋探しの第一段階は、初めて一戸建ての家に入れ無事終わったが、できれば二部屋は欲しいこちらとしては、よりよい条件の部屋を探し続けることになるだろう。 (P)

<『バーラト通信第1号』 1994.10.1/禁無断転載>

 

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