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「バーラトプル訪問記」 インドのバードサンクチュアリ(P)

 インドは広大な国である。日本の約9倍の面積の中、多くの人間とともにさまざまな動物も暮らしている。現在インドには約330の野性保護区と、66の国立公園があるという。
 そのひとつケオラディオ・ガーナ国立公園(通称バーラトプル・サンクチュアリ)を3月中旬のホーリー祭(インドの三大祭りのひとつ)の時期、日本から来た友人と訪れてみた。タージマハルで有名な観光都市アグラからバスで約一時間の距離にある。

バーラトプル・サンクチュアリ
 インドで国立公園を訪れるのは、今回が初めてである。というより動物が保護されている場所を訪れること自体初めての体験だった。
 かつて藩主の狩り場だったバーラトプルは、面積29平方キロメートルと、インドの他の国立公園に較べかなり小さい。これは保護している自然が、渡り鳥や水鳥など鳥類のためのものだからだと思われる。しかしこの規模が、車を使わなくても自転車やサイクルリキシャ(自転車の後ろに座席がついていて二人座れる)で回ることができる、ちょうどよい広さになっている。
 着いた日の夕方、サイクルリキシャを雇って公園内へ入ってみた。まず、その自然のすばらしさに驚いた。想像していた以上のものだった。シーズンオフに入っていたせいで、人が少なかったことも幸いした。もちろんある程度整備はされているが、自然の中で見る鳥たちの姿は、何ともいえない美しさだった。今まで鳥に関心を抱いたことはなかったが、その生き生きとした姿に、三日間の滞在の終わる頃にはすっかり魅せられてしまった。

 次の朝はボートに乗って、一時間ほど湖を回った。水の中に木々がたくさんあり、その木の上に鳥たちが巣を作っている。渡り鳥のシーズンはもう終わってしまったとのことだったが、それでも多くの鳥の姿を見ることができた。ちなみにここには約1400種、25万羽の鳥たちが棲息しているという。
 ここで暮らす鳥やインド各地から渡ってくる鳥の他、バーラトプルの特徴は冬の間ヨーロッパ、中央アジア、シベリアなどからやってくる渡り鳥たちである。約44000本あるという公園内の木の上に巣を作り、卵を生みひなを育て、また遠い地へと戻っていく。11月から2月までのシーズン中、湿地や湖でそうした渡り鳥を数多く見ることができるという。
 それでも滞在中にコウノトリ、トキ、サギ、ウとさまざまな鳥たちが、木の上にとまったり、ひなにえさを与えたりしている姿を見ることができた。

シベリアツル、ペリカンなど
 絶滅の危機にあるとされているシベリアツルのつがいにも出会うことができた。白い体に赤い顔の美しい姿である。シベリアツルはかつては日本にも渡ってきていたという。
 バーラトプルでは1880年、藩主が狩りをしていた時代に存在が確認され、その後80年のブランクを経て1960年に3羽が渡ってきたという。一時は200羽に増えたが、1970年代は60羽台となり、1982,83年は33羽だったという。公園事務所で買った1992年版のブックレットには、その数はたった6羽となっていた。
 約5500キロメートルの距離を、標高5000メートルのヒマラヤを超えてやってくるシベリアツルは、11月、12月にバーラトプルにやってきて、3月末頃シベリアへと戻っていく。
 ペリカンも見ることができた。日本の動物園で、うす汚れたペリカンを見たことがあるような気はするが、自然の中のペリカンの姿は優雅で堂々としていた。ペリカンは羽を広げると3メートルという大きな鳥で、中央アジアやトルコから渡ってくる鳥である。
 キツツキが木をつついている音や姿、キングフィッシャーという鮮やかな青と茶色の鳥も見ることができた。その他名前は覚えられなかったが、多くの鳥たちと出会うこともできた。鳥以外にも、大型の鹿サンバー、ブラックバック、レイヨウ、マングース、2,3メートルはあろうかというニシキヘビなど多くの動物も見ることができた。

 3日間の間に、これだけ多くの鳥や動物に会えたのは、リキシャマンのおかげでもある。彼らは公園からライセンスを得て仕事をしていて、1時間25ルピー(約75円)の公定料金で乗ることができる。彼らは実によく、鳥や動物の名前や出会えるポイントを知っていて、ガイドの役割も果たしてくれるのである。
 おかげで、初めはどの鳥も同じように見えていたが、3日間の間にはいくつかの種類の鳥の名前や特徴がわかるようになった。そしてバードウォッチングの楽しさを十分味わうことができた。
 大きな湖、湿地があり、巣の作れる木々があるという、渡鳥や鳥たちにとって貴重な場所であるバーラトプルにも問題はある。
 周辺地域の公害や、化学肥料の影響などで、森林や湖の破壊が進んでいるという。また雨期に十分な雨が降らないと、湖や湿地が干上がり木が枯れてしまうという。岸辺や運河のメンテナンスも重要で、私が訪れたときも、人が湖の中の草を刈ったり、ポンプを使って水を供給したりといったことがなされていた。
 自然を残そうという配慮からだと思われるが、公園内には絵はがきや本などを売っている売店が一軒、ホテルが一軒、チャイやジュースが飲める店が一軒あるだけだった。
 私の見た限りでは、よく保護されているように感じられたバーラトプルだが、人がいかに手を加え守っていくかはこれからの課題であろう。この貴重な自然、鳥たちが自由に生きられる場所が残され、守られているのを見て、インドもなかなかやるじゃないかと感心した。(P)

<『バーラト通信第4号』 1995.4.10/禁無断転載>

 

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