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「インドで映画を楽しむ」(P)

 年末から年始にかけて続けて映画を見に行った。冷房のきく映画館がまだ少ないインドでは、冬は映画の季節といえるだろう。

「007」はヒンディー語の吹き替えで
 年末に見た映画は、現在日本でも上映されている「007ゴールデンアイ」だった。
 インドでは映画は各回入れ替え制で、ある程度人の入る映画は座席指定になっている。料金はだいたい3段階に分かれていて、スクリーンの前が一番安い。そしてバルコニーと呼ばれる2階席が一番高い。バルコニー席は安い席の約2倍の料金である。映画館の設備にもよるが、新作でバルコニー席20ルピー(1ルピー=約3円)から25ルピーがバラナシの値段である。
「007」の入場券は売り切れ寸前で、ダフ屋から20ルピーの入場券を25ルピーで買い、中に入った。映画館の中は広く大きかったがかなり古く、座席の座り心地も悪くシートカバーは黒光りしていた。
 観客は男性が約9割、しかし女性の姿もちらほらと見かけられた。この映画は英語のはずだが、ヒンディー語に吹き替えられていた。これにはがっかりしたが、インドで多くの人が楽しむにはこの方がいいのだろう。となりの席の男性は、体を前に乗り出して吸い寄せられるように映画を見ていた。

インド版「クレーマー、クレーマー」
 新年に入って行ったのは「ぼくもひとり、きみもひとり」という映画である。この映画は「007」とは反対に女性の観客がかなり多かった。年齢も年輩の女性から若者まで幅広く見られた。映画館も前回とは大違いで内装もきれいで、座席はリクライニングシートでゆったりと座ることができた。
 この映画のストーリーはアメリカ映画の「クレーマー、クレーマー」とあきれるくらいに同じだった。
 インド映画の特色は、どんな映画にも必ず歌と踊りの場面が入るということだろう。何でもリアルに表現する映画とはちがい、歌と踊りによってさまざまな感情を表現するのである。この映画にも、インド映画になくてはならないこうしたシーンはしっかりと入っていた。突然ストーリーとは関係なく、二人が美しい海岸や森で歌い踊るのである。二人の生活は豊かではないはずだが。また、映画の中の歌はヒット曲となり町のあちこちで聞くことができる。

現在大ヒット中の映画
 つぎに昨年からのヒット作「花婿は花嫁を奪う」を見るため、バラナシで一番の映画館に出かけた。
 到着したときはすでに上映が始まっていた。こういうときは懐中電灯をちらちらさせながら案内係がやってきて、足下を照らしながら座席まで案内してくれる。また上映中必ず入場券のチェックをしに係員がやってくる。日本だったらいきなり上映中に人が前に立つなどということは考えられないが、ここではみな平気である。
 この映画、ストーリーは多くのインド人には無縁の世界の話である。主演の男女二人は若く、二人が知り合い思いを寄せあうという前半の舞台は何とヨーロッパである。美しい場面が次々に登場する。後半舞台はインドのラジャスタンに移る。ヒロインにはすでに親の決めた結婚相手がいて、ヒーローがその場に乗り込み、最後には父親も折れて、走り出した列車に乗っていたヒーローの胸にヒロインが飛び込みハッピーエンドとなる。

 雑誌によるとこの映画、現在も大ヒット中で、その売り上げは7億ルピーというから驚く。一時はテレビに押されて入場者が減っていた映画がまた活況を取り戻してきているそうだ。その理由としては音響などの設備のよい映画館ができたこと、入場者に若い人がふえ内容も以前のアクション、コメディ、ラブストーリーと何でもありのものから、海外ロケやセットにお金をかけたもの、若者の関心を引くものとなったことが考えられるだろう。
 しかしこの映画も若者向けとはいいながらも、男女家族連れなどさまざまな人が見に来ており多くのインド人が楽しめるものであるらしい。

 もう一つの近年の大ヒット作で、いまだにあちこちの映画館で上映されている「私はあなたにとって何」の主演女優マドゥリ・ディクシットは大人気となっている。彼女はその後次の映画に主演していないにもかかわらず、さまざまな話題でマスコミを賑わせている。たしかに今までの女優とはちがいスタイルもよく、踊りがうまく華やかな彼女は魅力的で、男性ばかりではなく多くの女性をも惹きつけているようだ。夏に行った語学学校の二十代後半の女性教師もこの映画のとりこになっていた。この映画の売り上げは15億ルピーと出ていたが、話半分にしても空前のヒット作には間違いない。2本ともスクリーンでは夢のような世界が繰り広げられ、映画館にいるときだけは外の世界を忘れさせてくれるのもだった。

年間の映画制作数は900本
 もちろんこうした大ヒット作はほんの数本で、制作数が年間900本といわれているインド映画の大多数には、それほど大きな制作費がかかっているわけではない。
 寒くてしかも停電という先週のある日、近くの映画館に足を運んだ。「ラームジャーネー(神のみぞ知る)」というこの映画、新聞の広告によれば家族向け映画ということだったし、今まで見た映画が比較的おもしろかったので、それと同じレベルのものを期待して出かけていった。
 しかしそこそこのお金はかけているものの、ストーリーの展開は支離滅裂で絶えず銃の撃ち合いがあり、早口のせりふが続く。日本の昔のアクション映画や、やくざ映画のような乗りである。主人公の男性はちょっと崩れた服装にくわえタバコといったスタイルで、悪玉は緑のジャケットにオレンジのシャツで登場する。

 ふつう映画は3時間弱の長さで、日本などと比べるとかなり長い。そして必ずインターバルという休憩があいだにはいる。日本ならこうしたときには自分で席を立ち飲み物などを買うところだが、ここではそんな必要はない。暖かいミルクコーヒー、コーラ、ポテトチップス、インドのスナックであるサモサなどの物売りがつぎつぎにやってくる。こうしたものを買って食べるのも楽しみのひとつである。
 この映画では主人公は多くの人を殺し、なかなか捕まらなかったが、最後には死刑となり物語は終わった。  

 ここバラナシだけでも新聞の映画欄を見ると、なんと20以上の映画館がある。映画館のまわりは活気に溢れている。さまざまな屋台が出ていて客待ちのリキシャマンが集まってくる。映画館の場所はみながよく知っている。今もってインドでは映画は人々の最大の娯楽といえるだろう。インドの生活の中で、私もまたその娯楽を楽しむようになってきた。
 次はぜひ設備がよいと聞いているもう一つの映画館「ガンガパレス」に行ってみたいと思っている。(P)  

<『バーラト通信第7号』 1996.2.5/禁無断転載>

 

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