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古糊って?
古糊(ふるのり)・・・掛軸の裏打にのみ使用される特殊で貴重な糊。
古来より伝わる神秘的なこの糊。精製に時間を要します。
炊いてから五〜十年熟成させないと使用できません。
湿気をもらうと糊シミが出易かったり、冷暖房にあたると狂い易い。
出来た糊によって粘度、接着具合が微妙に違い扱うには経験が必要です。
市販はされておらず、表具師自らが作る以外、手に入れる方法は有りません。
そういった点を改善した、注文すればすぐに届き
製品として安定している化学物質を含んだ糊へと、多くの表具師は移行しています。
古糊には接着力・コシがほとんどありません。
裏打の度、刷毛で裏打紙を何百、何千回と叩いて
繊維をほぐし、喰い込ませ接着させます。
裏打ちにはかなりの時間と手間を費やします。
糊単独の接着力というよりも、繊維が解れ絡み合う事で付く。
和紙を裏から刷毛で打ち込み解すので「裏打ち」と呼ぶのです。
上質な手漉き和紙ほど長く、良い繊維で出来ています。
良い材料・手漉和紙を使うにはこうした訳があるのです。
「その時」はいつ来るのか分かりません。50年先か100年先か…
掛軸は巻いて掛けて…という作業を繰り返す特殊な鑑賞方法をする美術品です。
いつか必ず来る次の修復。古糊で仕立てた作品の裏打ち紙は容易に取り除けます。
この糊を使うと全体的にコシも落ち、柔らかく仕上がります。
作品に与えるストレスは少なくてすみます。
負担が少ないという事は余計な強張りもなく、ストンと自然体で掛かるという事です。
掛軸の裏打ちに於いて古糊に勝るものは無いと思っております。
考え方は人によって様々です。
現代建築・思考には不向きなのかもしれません。
ですが、芳仙洞はこんな時代だからこそ
伝統的手法・技術を守り続けたいと思っています。
当店では掛軸の裏打に使う糊を毎年大寒に自社で炊いています。
工房ごとに炊き方・保管環境も違います。
一例としてその概要を御覧下さい。
大寒の糊炊き
数週間掛けて精製した小麦粉澱粉に水を混ぜ、薪で炊きます。
甕一杯に糊を入れます。糊が冷めたら甕に水を入れ、来年大寒まで封印します。
水を張らない方もいらっしゃいます。
古糊の入った甕達です。封を切ると・・・・。
甕の中にはカビが。このカビが重要で特殊な酵素を含んでいるようです。
接着力やコシを弱めてくれます。が、このカビや、水を取り除いてしまいます。
このカビを取る・取らないも表具師によって違います。
取り除いた分だけ糊のカサも減るし、またカビも生えるので。
糊の中の栄養分が枯渇するとカビが生えなくなります。
それがおよその目安です。
カビを取り除くとその下には熟成されてきた糊が。
口元まであった糊も熟成するうちに、半分以下に減ってしまいます。
年代による糊の変化。左から1年目・5年目・9年目・11年目(完成した古糊)
水と粉の割合など条件を整えても、その年の気候・環境などによって様々です。
同じ年の糊なのに生えるカビの色が全然違ったり。
完璧な古糊なんてないのかもしれませんが
試行錯誤しながらも続けたい大事な仕込みです。