朱門岩夫 著

オリゲネスの『過越について』研究

 

最終更新日18/12/08

注は削除した。

 


 

拙訳の緒言

 私が訳出した『過越について』は、オリゲネスの作品の中で二十世紀半ばまで、わずかな断片を除いてその書名しか知られていなかった作品の一つである。この小さな論考は、その主題が端的に表しているように、オリゲネスのキリスト教理解あるいは信仰の神髄とも言うべき彼の過越秘義の思想を手際よく簡潔に提示している。しかしそれは同時に、私の知るかぎり、これまでのオリゲネス研究者が本格的に取り上げなかった主題の一つでもある。本書はその点で、オリゲネスの過越秘義の思想を知る上で貴重な資料を提供してくれることだろう。もちろん彼の過越秘義の思想を取り扱った研究者は皆無というわけではない。たとえばL.リース師は、この『過越について』の校訂版が世に出されたわずか一年前の1978年に、『オリゲネスにおけるみ言葉と感謝の祭儀(エウカリスチア)』という博士論文を発表している。彼はそこで、信仰共同体の中で執り行なわれる感謝の祭儀という枠内で、オリゲネスの過越秘義の思想を、彼に先行する幾人かのギリシアの思想家やキリスト教著作家、教会教父たちの諸見解と対照させながら、綿密に分析して共通性や独自性を描き出し、オリゲネスの過越秘義の思想のいつの時代にも通用する普遍的意義を明らかにしているのである。だが、文献目録および脚注を参照すればわかるように、リース師がオリゲネスの『過越について』を読んだ形跡は見当らない。たぶんこの校訂版は、リース師の研究成果の正しさを証明する有力な証拠文書の一つとなるに違いない。

 この『過越について』は、客観的研究という名目で異質な概念を導入して歴史的文献を切り刻み、研究者の主観的嗜好に好都合な思想を捏造するようなことはせず、思想史という大きな流れの中で文献の全体を素直に受け止め、その全体性の中でこそ初めて姿を表す根本的志向を総合的に分析することができる人にとっては、オリゲネスのキリスト教理解・信仰の核心・過越秘儀を開示する珠玉の名作の一つとなるであろう。

1993年2月16日


 

改訂版の緒言

 本作品の訳者による緒言と研究は、既に某季刊誌に掲載された。その後、訳者に多少のゆとりができたので、訳者の気付く限りで『過越について』の訳文の訂正や加筆を行った。

1998年2月23日

 


 

内容

 

1.トゥーラ文書

2.校訂版・翻訳

3.真作性・様式

4.年代・場所

5.動機

6.構成

7.写本

8.思想史的背景

9.内容

10.本文