正造の思想は21世紀へのメッセージ
 これは、去る2000年5月15日に宇都宮市で開催された文芸講座「文学にみる田中正造-その思想と行動をさぐる」の講演会で渡良瀬川研究会代表幹事の布川了さんが話して下さった中から「正造の思想は、21世紀へのメッセージ」に深く関わる部分を要約して掲載しました。

◆ 布川了さんの講演から
……(前略)……
 田中正造について、私がまず言いたいのは、正造の思想は21世紀へのメッセージだと思うんです。佐野の近くの出身で石井孝という近代史の学者が言うには、田中正造の基本思想について、一つは政治の浄化である。それから、環境問題。正造さんが言っていることは、まさにピッタリ当てはまるんです。これを日本中の人に知ってもらいたいと、私たちはずっと活動を続けてきました。

 ポスター(省略)を見てください。正造の3つのことばがあります。まずは、「天の監督を仰がざれば、凡人堕落。国民、監督を怠れば、治者は盗を為す」というのがあります。「治者は盗を為す」なんて、正造でないとちょっと言えない、グサリと効いた文句だと思います。故人の金丸信氏が非常に問題になった後の選挙で、これを2千枚位つくって、各政党本部に持っていって候補者の選挙事務所に貼って下さるように頼んだことがあります。私も地元の館林に持っていくと、 早速、事務所に掛けてくれました。「治者は盗を為す」というのは、金丸信の話と重ね合わせると、皆が納得したのではないかと思います。

 次が、「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」と言っています。これも、最後の「人を殺さざるべし」、これが正造だと思います。昭和40年代あたりから、公害でたくさんの人が亡くなったことについて、公害国会とかいろいろあって、いくらかづつ公害は収まっていますが、まだまだ公害や環境問題はゆるがせにできない、まさに地球規模の問題であるということです。
 4・5年前の元旦の読売新聞に、日本の一番南にある沖ノ鳥島の写真が載っていました。真中の小さな岩を1万個の波消しブロックで守っているんです。もう島じゃなくて岩礁ですよね。これを守らないと島が沈んでしまう。この岩が波に隠れてしまうと、日本全体の面積よりちょっと広い、40万平方キロの海が日本のものでなくなるので、建設省もこの岩一つを守っているんです。ここでは、日本沈没は始まっているのです。
 また1~2メートルしか高さがない南の小さな島々の国は、地球温暖化で海面の上昇がどんどん進み、本当に悲鳴を上げているようです。加えて、大気汚染やダイオキシンの問題もあります。そうした諸々のことについて、正造は「真の文明は人を殺さない。今の文明は偽物だ」と、百年位前に喝破しているわけです。これから始まる21世紀に真の文明を築き上げなければ、生活が破壊されていくことを正造が言っているのは、非常に大事なことだと思います。

 もう一つは、「陸海軍備全廃すべし」という絶対の平和。これらは、皆さんへの、あるいは21世紀の子や孫へのメッセージなんです。ぜひ皆さんもどこかに(ポスター=掲載略)貼っていただければと思います。今まで3万枚ぐらい印刷しましたが、今年は更に1万枚近く印刷し、日本人の合言葉にしてもらおうかなと思っています。まず、正造の思想が非常に大事なことであるところから、聞いていただきたいんです。
……(後略)……

【kawakiyoのツブヤキ】
 布川さんの話のトップに「天の監督を仰がざれば、凡人堕落。国民、監督を怠れば、治者は盗を為す」というのがありましたが、別の角度から見ると、まさに正造の思想が現代に至って成就したと思われるものに、情報公開制度や行政手続法があります。これらの制度を住民が上手に使うことにより、誰でも理解できるガラス張りの社会が生まれると思います。
 しかし、この制度は一見、「住民VS国・自治体」の関係に思われていますが、10年・20年のロングスパンで見ると、住民と行政の関係だけでなく雇用者VS被雇用者わかりやすく言うと資本家VS労働者かな、あるいは本当は必要なのかもしれないグレーゾーン(有史以来グレーゾーンの無い社会を人類は体験したことが無いと思うので…「グレーゾーンが無い社会なんて『クリープの無いコーヒー』みたいに味気なくなっちゃう」…かな?)が無くなるため、住民VS住民の対立関係が生まれるのではないかとも思い心配しています。
 そうならないように、この制度(情報公開制度や行政手続法)は上手に使っていきましょう…(笑)