日本人と動物との関係性における宗教の影響
日本の歴史において、神道と仏教をはじめとする宗教がもたらした影響は大きく、政治、文化、生活習慣など、あらゆる面に及びましたが、日本人の動物との関係性という側面においてもその影響は大きなものでした。特に、殺生禁断および食肉をタブー視する文化は、神道の穢れ、仏教の教え、先史以来のアニミズムの(Animism)世界観を背景に、仏教伝来以来、ゆっくりと確実に日本人の心に浸透していきました。
神道の影響
1.神道の起源
神道は、先史以来の自然崇拝やアニミスティックな世界観を背景に、天皇家につながる一族の祖先崇拝としての氏神信仰にその起源があります。仏教が6世紀中頃に伝来した後、国家鎮護のための宗教として急速に朝廷や貴族社会に浸透していったなか、日本古来の宗教である神道の正統性、および天照大神の直系の子孫として天皇家の(日本の統治者としての)正統性を示すため、8世紀初頭に、天皇の系譜や神話・伝説などから成る、日本の起源と国家としての成り立ちを表した歴史書(古事記と日本書紀)が編纂されました。そのなかに登場する多くの神々が、古来、全国各地の神社の祭神として祀られています。
2.穢れの概念
神道の穢れの概念は、現代では直接意識することはあまりありませんが、歴史を通して、日本人の意識生活や社会風習のなかで大きな影響を持ち続けてきました。その概念は、現在も忌引きの決まりごとなど、社会の様々なところに生き続けています。死にかかわる穢れ(死穢)や血に関わる穢れ(血穢)、そしてそれらに関連するものとして、例えば食肉などの行為が穢れとして忌み嫌われました。そして、穢れが発生すると、罪や災いを招くことになるとされ、祓の儀式を執り行って穢れを拭い去り、他にも穢れを移さないようにするため、一定の期間、引き籠らなければなりませんでした。
3.神々の使い
神道では古来、様々な動物が、神の使い、あるいは神と見なされてきました。例えば、春日大社の鹿、伊勢神宮の鶏、稲荷神社の狐などですが、他にも実に多くの例があります。
仏教の影響
1.輪廻の思想
仏教では、我々、煩悩のある存在は、六道(天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道)と呼ばれる六種類の迷いのある世界を輪廻するとされており、来世どの世界に生まれ変わるかは、現世の行いによって決まるとされています。平安時代初期(823年前後)に書かれた我が国最古の説話集、『日本霊異記』
(著者は、薬師寺の僧、景戒で、雄略朝から嵯峨朝に至る因果応報説話116篇を記述)には、「畜生と見ると雖(いえど)も、我が過去の父母なり六道四生は我が生まるる家なるが故に、慈悲なくある可から不るなり」とあります。
2.不殺生戒
仏教の教えとして守らなければならない五つの戒があり、それらは、不殺生戒(フセッショウカイ/殺さない)、不偸盗戒(フチュウトウカイ/盗まない)、不邪婬戒(フジャインカイ/不倫をしない)、不妄語戒(フモウゴカイ/
嘘をつかない)、不飲酒戒(フオンジュカイ/酒を飲まない) ですが、そのなかの不殺生戒は、神道の穢れと相まって、食肉禁止とともにタブーとして日本人の心に刻み込まれることになりした。飛鳥時代後期の675年には、天武天皇によって、牛・馬・犬・猿・鶏の食肉を
(4月から9月までの半年間)禁止する勅令が下され、その後同じような勅令が811年まで10回にわたって下されています。また、動物の供養(慰霊祭)や動物を自然に帰す放生(放生会)などは、この仏教の教えに基づく伝統的儀式です。