法話集
葉月
自らを省みる「先祖供養」に終わりはない
先日、お寺にお参りに来られた方から、ある宗教関係の人に「先祖が浮かばれていないから、不幸なことが起こるんだ!先祖供養をした方がいい」と高額なお布施による供養を勧められたと伺いました。仏教を正しく理解して、供養とは何かを知っていれば、このように人の恐怖心を煽る形での供養などは有り得ないと判断できるのですが、どうしてこのような話が絶えないのでしょうか。とかく人間は自己中心的で、例えば物事がうまく行っている時は、自分の能力であり、努力の結果であると考えがちです。ところが何事も「山あり谷あり」で、うまく行っている時はともかく、少しでも不都合なことがあると、自らを省みることなく、周りのさまざまなものに原因を求めがちです。実はここに心の落とし穴があり、もし、うまく行かない原因を他に求めているところに、先のような話があると、そう思い込んでしまうことがあるのかも知れません。
そこで、供養についてお話をしてみたいと思います。葬儀や法要などの仏教行事は、もちろん故人の魂への菩提回向として大切なものです。しかし、供養は死者の為だけにあるのではなく、お経の中にも説かれているように、生きている者が自らを省みて仏様の功徳を授かる儀式でもあります。この「自らを省みる」とは、自らの心や真の姿に目を向けることであり、気付く(あるいは目覚める)ことで、これこそが供養行事を通じて説く仏教の教えなのです。
大切な事ですから、もう少しこのことについて考えてみましょう。例えば毎年、お彼岸やお盆にお墓参りをしているという方は多いと思います。でも、花や線香を供えお墓の前で合掌しているご自身の心の奥底に目を向けると、お墓参りを単なる儀礼として受け止めていたり、お墓参りをすることで「先祖を大切にしている」という自己満足に陥っているご自身の姿に気付くことはありませんか。また「ご先祖様ありがとうございます」と祈っているご自身の心の奥底に目を向けたとき、「成仏して祟らないでください」とか「物事がうまく行きますようにお願いします」と願っているご自身に気付くことはありませんか。
もし、そうしたご自身の姿が少しでも垣間見えたとしたら、感謝の心をもって敬うべき先祖に対して、あまりにも無関心であったり、祟りの対象にまでおとしめているご自身に気付いていないといえます。もちろん僧侶に頼んで先祖を供養し、成仏して貰おうとする行為そのものは大変結構なことですが、そこに自らを省みることなく、ただ今の苦しみから逃れたいが為の本心があるなら、不都合な出来事をすべて霊のせいにしてしまう恐れがあり、真の供養とはいえません。供養行事は、現世に生きる者が自らを見つめ直し、正しい生き方を考える場であり、その機会を与えて下さったのが身近な故人でありご先祖様です。このように考えると、先祖供養が一生かけて努力しても「これでもう大丈夫」などと、終わりのあるものでないことはお分かり頂けるはずです。
ご先祖様は、感謝の心をもって敬うべきと述べましたが、ご自身のご先祖様が何人いるのか考えてみたことはありますか。ご自身を基準に1人が2人(父母)、2人が4人(祖父母)というように、ネズミ算式にさかのぼっていくと、僅か二十七代で今の日本の人口を超える1億3421万7728人のご先祖様が全ての人に等しく存在することになります。因みに現代より若くして子供を授かった時代を考慮し、一代が25年とすると675年、30年としても810年で二十七代となりますが、この間に、もし1億3421万7728人のご先祖様のたった一人が欠けただけでも、私達はこの世に生を受けることができなかったことになるのです。
お釈迦様はお生まれになった直後に、天地を指して「天上天下、唯我独尊」といわれました。これは決して「自分だけが一人尊い」とおっしゃったものではなく、全ての人間ひとり一人が「天上天下、唯我独尊」即ち、人間がこの世に命を授かるということは奇跡であり、それだけに人間はひとり一人がかけがえのない存在であり、その命は途方もなく尊いものであるとおっしゃっているのです。
お線香とロウソク、お花とお供物を供え、お経によって回向をすることは大切な供養です。しかし、今日の自分が存在するのは、ご先祖様が血と汗、涙と笑いの中で生きた証であると考えれば、自らが今生において精一杯正しく生きて、魂を磨き輝かすことこそが本来の先祖供養といえます。今月は、お盆の月です。どうか、より一層の心を込めてご先祖様をご供養して頂きたいと思います。
(合 掌)
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