法話集
如月
何故、節分の日には星供養をするのか
仏教では、悟りを開いた仏様が住む所を浄土といい、例えば、観音様の補陀落浄土、薬師如来の浄瑠璃浄土、お釈迦様の霊山浄土というように、仏様の数だけ浄土があるといいます。そんな浄土の中でも最もよく知られているのが阿弥陀様の住む極楽浄土です。極楽浄土は西の方へ十万億の仏の国土を過ぎた所にあるとされ、『阿弥陀経』によれば、「国土は黄金・宝石がちりばめられ、底一面に黄金が敷き詰められた池の中には、大きな蓮の花が美しい光に輝きながら芳しい香りを放っている。また黄金の大地の天上には常に音楽が奏でられ、色とりどりの美しい鳥が優雅な声で鳴いている。そして爽やかな風が眩いばかりの並木を揺るがせながら、妙なる音楽を作り出している」とされています。
以前、そんな仏教の世界観からすると、「大宇宙という科学的なイメージは、なかなか結び付かない」と知人から言われたことがあります。なるほど、スペースシャトルが象徴する先進の科学技術や、宇宙空間を飛び交い地球を通り抜けてしまう素粒子として知られるようになったニュートリノの話などを思い起こせば、知人の話も分かるような気がします。しかし大宇宙のイメージといっても、例えばスペースシャトルは宇宙工学、ニュートリノは地球物理学というように様々な分野に分かれており、これらの原点ともいうべき「天文学」の歴史をさかのぼれば、古代の人々が夜空を彩る星の位置や運行に注目し、農作物の生産に有効な季節の移り変わりを予測しようとした時代に到達し、やがて説明の出来ない星の存在と動きの不思議が信仰に結び付いたことは容易に想像することが出来ます。
そうした人々の心をバックボーンに発展してきた神社や仏閣が、例えば厄除・開運のように星の動きをもとに人々を導いているのもそのためです。むろん今日では、古代の人々が抱いた星の不思議もかなり解明され、例えば地球上の全ての生命は宇宙から来る光によってエネルギーを得て生かされているという話についても、地球が最も影響を受けている恒星・太陽は原子力発電所と同じであり、太陽が発する毎秒4兆個の原爆に相当するエネルギーの一部、1000個分だけが地球上に達することによって生命は維持されていると説明できます。しかし全天の八十八星座で、1等星から6等星まで肉眼で見ることができる星の数は4000~6000個あり、太陽系の10個足らずの惑星の外は全て遠距離にある太陽のような星であることを知れば、改めて私達人間は太陽をはじめとする様々な星の光に包まれた存在であり、光を吸収することによって生かされていることを覚り、星と光が信仰の対象になるのは当然の成り行きとして理解できます。
そこで星の話を掘り下げてみたいと思います。まず、古代の人々も真っ先に注目したであろう北斗七星は、北極星の周りを規則正しく回る七つの星の一団として常に照らし続けているため、私達の生命に最も大きな影響力を与えるとされています。この七つの星(貧狼星、巨門星、禄存星、文曲星、廉貞星、武曲星、破軍星)には、それぞれ干支が割り振られ、各人の生まれた年によって定まるため、宿命の星とも呼ばれ「本命星」といいます。これに対して、九曜(日曜星、月曜星、木曜星、水曜星、木曜星、金曜星、土曜星、羅ごう星、計都星)という毎年巡ってくる星があります。日曜星は太陽、月曜星は月、水木金土は惑星、羅ごう星は光らない星(宇宙には明星より暗黒星の方が多いとされている)、計都星はハレー彗星など彗星のことですが、その年の吉凶を表す星として毎年変わるため「当年星」といいます。また、生まれた月によって定まる星座もあり、十二宮(天文学では十二星座という)といい「本命宮」として位置づけられています。さらに生まれた日によって定まる星として、スバル星やオリオン座など著名な星から、小さい星ばかりの集団で未だ所在が確定しない星まで、古来インド人によって割り振られた様々な星を二十八宿といい「本命宿」としています。
毎年、節分(今年は2月3日で、太陽の運行をもとにした暦では立春から新年とされ立春を元旦、その前日である節分は大晦日ということで、新年を迎えるにあたっての様々な行事が行われる)には、「星祭」「星供養」といい、日本全国の真言宗寺院では、願主それぞれに縁のある星を供養し、新年の災厄を消除し、所願成就を祈る儀式が執り行われます。密教における「星供養」は、インドの「宿曜経」に基づき、大日如来が光明三昧を表した姿である金輪仏頂尊を中心に北斗七星、九曜、十二宮、二十八宿が祀られ、北斗曼荼羅を本尊として修されます。当山でも午前11時と午後2時から特別護摩祈願を厳修し、厄除け、方位除け、さらには諸祈願を成就すべく仏様に一心に祈りを捧げます。この日は境内に祀られている明運星も利益が倍増し、一心に祈りながらくぐって頂くと運が開けますので、弘法大師によって招来され確立された「星祭」に参加して、宇宙からの光のエネルギーを心身に吸収して頂ければと思います。
(合 掌)
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