法話集
文月
「うつ」という心の病
先頃、警察庁がまとめた昨年(2007年)の自殺者統計が発表され、全国の自殺者は3万3093人となり、1998年から10年連続で3万人を超えたことが明らかになりました。原因・動機について特定できたものを統計した結果によると、最も多いのが「健康問題」で、中でも「うつ病」が目立って多いことが分かりました。その他の原因としては30代で「多重債務」、「仕事疲れ」、「職場の人間関係」などが、また60歳以上では「生活苦」、「多重債務」、「介護・看病疲れ」などがあり、お金を第一主義とする現代社会と高齢社会の問題が浮き彫りになっているようです。
最多の原因となった「うつ病」について調べてみると、「何をやっても楽しくない」という日が1カ月近く続いたら「うつ病」だそうです。この病気にかかる人は、真面目で几帳面で責任感が強く、他人に気を使う人が多いそうです。考えてみれば、これらは私たち日本人が人格の規範として目指し、誇りとしてきた性質であり、その意味では最も「うつ病」にかかりやすい人種なのかも知れません。世界屈指の経済大国であるにも関わらず、自殺率が世界でも1位というところに、人間疎外の物質文明に押し潰されそうな日本人の姿があるように思います。
とはいえ「この世で成仏せずして一体いつ成仏するのか」と説いた弘法大師の教えからすると、何時いかなる時代でも、今世における自らの魂の修行を全うするのが私たちの使命です。では厳しい今世をどのように生きれば良いのでしょうか。心と遺伝子の研究の第一人者として著名な筑波大学名誉教授の村上和雄先生によると、私たちの遺伝子は97%が眠っていて、残りの3%だけで生活しているそうです。従ってもし眠っている遺伝子をオンにすることが出来れば、新しい自分自身に出会うことが可能になり、思いも寄らない生命力を発揮できるといいます。それには「明るい心」や「楽しい心」、特に「笑い」がとてもいいそうです。
こんな話を聞いたことがあります。ある方が「うつ病」にかかり、毎日、自らの暗い心と戦う中で、疲れ果て、いよいよ死を選ぶ決意を固めた時のこと、いざ死のうとした瞬間にふと今までにない静かな時が訪れたそうです。その瞬間、今、死のうとしている自分とは対照的に心臓の拍ち続ける鼓動を感じたといいます。「ああ、自分は今、死のうとしているのに身体はそんな時でも一生懸命生きているんだなあ!」という思いが心をよぎり、急に自分自身の身体が愛おしくなり、ふと生きようと決意したそうです。
私たちの身体は、酸素、炭素、水素、窒素など全て地球上の元素から成り立っています。地球上の元素を無機質の形で植物が摂取し、その植物を草食動物が食べる。そして、私たち人間はその動植物を食べて生命を維持していることを思えば、私たちの身体は全て地球に由来し、地球から一時的に「借りている」と言えなくもありません。つまり、私たち人間は無常の中で身体を地球からレンタルし、死という期限と同時に返却している訳ですが、できれば自殺という形ではなく、「貸し手」である地球に喜ばれるような生き方をして、この身体を返したいものです。
無常といえば、私たちの身体を構成する細胞は4カ月で全て入れ代わるといいます。それだけ、自分といえる私たちの身体は無常ということですが、その無常な身体を維持して、心と身体をつなぐ人間存在の核となるものが魂といえます。とすれば、魂すなわち心も一つの臓器といえます。このことは、肺や胃腸、肝臓などと異なり、なかなか認識し難い面がありますが、「うつ病」による自殺を考えると、心という臓器の病も不治の病と同じように死に至ることがあることを認識し、身体の病と同じように治療しなくてはなりません。「うつ病」を患っている人に、「元気を出して!」「明るくしよう!」「頑張って!」などと励ますのは逆効果であるといいます。それ程、「うつ病」の人にとって前向きに明るく生きることは難しいようですが、もし、出来るようでしたら、朝、まず起きたら太陽を仏様と思い、手を合わせお参りしてみてください。これが出来たら急ぐ必要は全くありませんから、夕方、日が沈む時に「今日一日ありがとうございました」と感謝の気持ちで祈ってみてください。こうした行為を続けている内に、自身の中に眠っている生命力に目が向けられ、必ず自分自身に変化が生まれて来るはずです。
(合 掌)
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